ユキちゃんの初詣

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おおみそかの 夕陽がしずもうとして、神社をオレンジ色に 染めている。 その境内で、ぼくは ひざを かかえて しゃがんで、ブルブルと ふるえていた。 ぼくの 目からは 大粒の あつい なみだが ポタポタと、雨のように 神社の 地面を ぬらした。 さむい……でも、そんなことはどうでもよかった。 おばあちゃんが……苦しそうに寝込んでいたおばあちゃんが、このまま遠くへ行ってしまうような気がして。 おばあちゃん、行かないで……ずっと、そばにいて。 そんな想いが、ぼくの 中で こだましていた。 その時だった。 「こんな 所で、何してるの?」 女の子の声に 顔を上げた。 雪のような白い模様のある、こん色の着物を着た女の子。 その子が、きれいな すきとおった ひとみで、ぼくを みつめていたんだ。 「だれ?」 ぼくが たずねると、女の子は にっこりと 目を細めた。 「私は、ユキ。あなたは?」 「ぼくは、ハル」 「そうなんだ。ハルくん……何だか、あたたかそうな 名前なのに、さむそうだね。それに、どうして、泣いているの?」 ぼくの顔を よく見たユキちゃんは、少し 心配そうな 顔をした。 「そうなんだ。おばあちゃんが……」 ぼくは話した。 やさしくて大好きな おばあちゃんが、苦しそうに 寝込んでいること。 遠くの病院にお医者さんを 呼びに行こうとしたけれど、たどり着けなかったこと。 そして……その おばあちゃんが遠くへ行ってしまいそうで、もう会えなくなりそうで、こわくて たまらないこと。 「そう……」 ぼくの お話を聞いたユキちゃんは、そっと 目を 細めた。 「おばあちゃんはね、きっと……ずっと、ハルくんの そばに いるよ」 「えっ?」 首をかしげた ぼくの前で、お空からふってきた白い雪が まいあそんだ。 ユキちゃんは、手の平を そっと 上に向けた。 「もし、いなくなったとしても……ハルくんのおばあちゃんは ずっと そばにいる。だって、私のおばあちゃんも、そうだから」 「ユキちゃんの おばあちゃんも?」 ユキちゃんは、少し さびしそうに うなずいた。 「私の おばあちゃんは もう いない。私が小さい頃、いなくなって しまったの」 ユキちゃんの 手の平に のった 雪が、しずかに とけた。 「でもね、もう おばあちゃんには 会えないけど……おばあちゃんは、ずっと、そばに いる。そして、時々……この雪のように、私に会いに来てくれるんだ」 ぼくと ユキちゃんを 包むように ふわりと 雪が まいあがった。 それは とても 冷たかったけど……どういうわけか、ぼくの 心は、ポカポカと あたたかくなった。 それでも……ぼくはやっぱり いやだった。 おばあちゃんと 会えなくなるなんて……こわくて、こわくて たまらなかった。 そんな ぼくの 顔を見て……ユキちゃんは、口を ひらいた。 「ねぇ、ハルくん。初詣しない?」 「初詣?」 「そう!ハルくんの おばあちゃんが 元気に なるように」 ユキちゃんは、まるで おばあちゃんのように にっこりと 笑った。 ぼくたちは、その 神社に お参りをした。 おさいせんも ないし、さむくて こごえそう……でも、ぼくは 一生懸命に おいのりした。 おばあちゃんが 元気に なるように……遠くへ行ってしまわないように。 目をつぶって、何回もおいのりしたんだ。 「ユキちゃん、ありがと……」 目を開けたぼくは、となりで おいのりしてくれている ユキちゃんに、おれいを 言おうとした。 でも、ユキちゃんの すがたは なくなっていて……かわりに、雪で作られた 小さな うさぎさんが 置かれていた。
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