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「ああ、いい天気だな~」と、道端の花に見とれたり
小鳥の声に、耳を傾けたりしていると、セイジが、脱兎のごとく走って来た。
「おや、何をしに来たんだ?」ベニーが、恍けた顔で聞く。
「酷いじゃないか、宿に、置いてきぼりにして」
セイジは、はぁはぁと、息を切らせて言う。
「お前が、まだ寝ていたからだよ」「起こせば良いだろっ」
「起こせば、付いて行くと言うじゃないか」「、、、そうだけど」
「しかし、良く此処だと分かったな」「昨日、農家の話をしていたし
道で会う人に、こんな女性を知らないかって、訪ねながら来たんだ」
「ふ~ん、良く追いついたな」「俺は、足の速いのだけが、取り柄だからな」
そう言い乍ら歩いて行くと、道の両脇一杯に、色々な野菜が植わっている
畑が広がっている所へ出た。
「上手そうな野菜だな~」セイジは、目を細めて言う。
しばらく歩くと、畑仕事をしている、お爺さんと出会った。
そのお爺さんは、ベニーを見て、麦藁帽子をかなぐり捨て
転がる様に走って来ると「ベニー様、私です、セイランです」
と、ベニーの足元に座って、涙を零す。
「セイラン、元気そうで何よりだな」ベニーも、懐かし気に言葉を掛ける。
「生きているうちに、もう一度会えるとは、、思っても居ませんでした」
セイランは、涙を溢れさせて言う。
「ベニー、この爺さんと知り合いなのか?」セイジが、そう聞く。
「ああ、お前と同じ様に、私に付いてきた奴だ」「へ~~」
「汚い所では御座いますが、我が家で、一休みして行って下さい」
セイランは、ベニーを自分の家に、案内する。
「フジ、お茶を入れて呉れ、ベニー様が、いらっしゃったんだ」
セイランは、家に居たお婆さんに、言う。
「何ですって?ベニー様が?」と、顔を出した、お婆さんを見て
優しそうな、お婆さんだと、セイジは思った。
「まぁまぁ、ベニー様は、昔の儘で、お変わり有りませんね~」
にこにこと、嬉しそうな顔で言うフジ。
セイランが、ベニーと別れ、この土地で農家になろうとした、きっかけが
このお婆さん、フジだった。
「セイランは、私と別れて、このフジと結婚して、農家になったんだ」
「へ~~」その時、まだこの土地は、荒れ地だった。
セイランは、ベニーの助言を受け、作物が作れる畑に、変えて行き
とうとう、こんな肥沃な土地にして、旨い野菜を作れる様になったのだ。
「息子も娘も、独り立ちして、今は、また二人で、のんびり暮らしています」
「孫も、時々遊びに来てくれます」「そうか、それは何よりだな」
フジは、新鮮な野菜を、たっぷり使った食事を、ご馳走してくれ
それを食べながら、懐かしい昔話に、花が咲く。
「じゃ、また来るよ」「どうか、お達者で」セイランとフジに見送られ
ベニーとセイジは、その先の村を目指す。
「瓜、こんなに沢山貰っちゃった」セイジは、重い袋を担いで言う。
このセイジを、振り切れなかったのは
どこと無くセイランに似ていたからだと、ベニーは気付く。
セイランも、付いて来るなと言うのに、どこまでも付いて来た。
そして、5年間、一緒に旅をしたのだった。
そのセイランも、すっかり歳を取って、、月日の経つのは、早いな~と思う。
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