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「須々木さん、家までお送りします」
「やだなぁ、一人で帰れるよ」
「須々木さんは、ちどりがわの大切な乗客です。さあ、ご家族の所へ帰りましょう」
小安の熱意ある瞳に、須々木はほだされたようだった。「うん、わかった」と、須々木は素直に頷き、蜜柑を袋に詰め始めた。
「みんな。悪いが少しの間、店を見ていてくれないか」
「分かりました」
「頼みましたよ、十分ほどで帰る」
「待って、私も行きます」
厨房に戻ろうとした小安の背中に、涙を拭った美星が声をかけた。
「お願いします。私、須々木さんを最後まで見送りたいんです」
小安が誰かの人生を運ぶ運転手なら、美星は見守る車掌でありたい。振り返った小安は、美星の決意を確かめる。
「一緒に来てくれますか?」
「はい、私にも手伝わせてください」
美星は、ポケットにしまってあったヘアゴムで髪を結わえた。
どんな形でもいい。あの世にいる両親に、いつか小安の働くちどりがわの物語を聞かせたいと願いながら。
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