第五話 未来を紡ぐダイヤグラム

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 美星の戸惑う声を遮って、小安は勢いよく頭を下げた。 「正直に言います、俺は天原さんが好きです。このバレンタインデーで、誰かにあなたを取られるんじゃないかと焦って、今日なんかに約束を入れてしまいましたが」  頭の中が真っ白だった美星は、その場に固まってしまった。  掴み損ねた言葉の珠が、胸の奥へ落下していく。嬉しさより先に、幸せが壊れてしまう不安が、頭を過ぎた。  ソファに倒れ込みそうな背を、美星は誰かの手で支えられた気がした。それは両親の見えない手であったかもしれない。   そっと心の眼を開くと、小安のくれた言葉の珠は壊れてなどいなかった。  長い夜を乗り越えてきた月明かりのように、欠けることなく輝いていた。美星を守ると誓うように。  我に帰ると、顔を上げた小安の真剣な眼差しが、美星に向けられている。心音が耳にまで聞こえそうなくらいに鳴る。
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