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一年前の春までは見知らぬ者同士、きっとすれ違っていても気付かなかったろう。
無数に張り巡らされた人生の途上には、避けて通れぬ不幸もあった。
しかし様々な偶然と、出会った人々の縁がなければ、美星と小安は今日という駅までたどり着けなかった。
小安が急にしんみりとなった。きのうまでの通過駅を振り向いて、心の中でそっと手を合わせているのだろうか。
「私、小安さんと出会えてよかったです。これからも、よろしくお願いします」
「ああ……ごめん。慣れないものだな、幸せってさ」
鼻の下を擦って、小安は表情を誤魔化す。美星は柔らかな微笑で小安を見守った。
真新しい二人のダイヤグラムノートが、心の奥で開かれる。
大丈夫。心がたわむ日も、未来に続くレールはどこまでも真っすぐに伸びている。
あしたへの列車に乗っていこう。
生まれたての、朝焼け空を迎えるために。
<了>
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