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何と答えていいか分からない美星に、須々木は慰めるように笑いかけた。
「ずっと言いそびれてたけど、おれはカヨちゃんが好きだ。世界で一番好きだ。おれが引っ越しても元気でな」
蜜柑を、美星は大事に掌に包んだ。じきに、須々木はカヨちゃんのことも忘れてしまうのだろう。墓場まで持っていこうとした、大切な記憶を。
「私、忘れませんから。須々木さんのこと、ずっと私が覚えていますから……どうかお元気で」
ついに溢れ出た涙が、美星の両手に零れ落ちる。ふと、誰かの手がコートの肩に置かれた。見上げると、瞳の色を揺らした小安が隣にいて、美星の顔を覗いている。
「俺も覚えています。ちどりがわのみんなも。いつまでも、きっと」
小安の手はすぐに離れたが、その感触は美星を支えてくれるのようだった。
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