第一話 夜行列車は、昨日を越えて

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「おかあさん、きしゃプリンが食べたい」 「今日は駄目。また今度ね」  常連客の石塚(いしづか)親子の会話が、美星の耳に届いた。汽車プリンは、自家製プリンに生クリームを絞って煙に見立てた、人気メニューだ。  美星は頬が緩んだ。覗いたスマホには、見慣れた風景が映っている。  数年前、千鳥川駅は高架工事を経て様変わりした。小安の話では、このちどりがわの外観は、以前の千鳥川駅をイメージしているという。  初めての撮影日は一年前の今日だった。  幸か不幸か、美星の身辺は特に何も変わっていない。彼氏ができるという幸運はないが、仕事は何とか続けられていて不幸でもない。だが、ちどりがわという癒しスポットを得たおかげで、生活の質は向上した。
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