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駅近の本屋に入り、ユメは目的のガイドブックだけでなく他の本も物色する。
「あ、ファッション誌の最新号だ。これも買っとこ!」
「さっきサンダルも買ってたのに、お金足りるの?」
「お年玉に手を付けてなかったから大丈夫だよー。あたしってば計画的」
「へえ」
あればある分だけパーッと使ってしまいそうなタイプに見えたから意外だった。
「ほら見て。今月号の表紙、Rinaだよ! あたしの憧れのモデルさん。あたしたちと同じ神奈川出身なんだって。出身が同じってだけでもうアガるよね」
「そういうものなんだ……私そういうの疎くて。ごめんね」
ファッション雑誌なんて買ったことがない。こういう点においては、ミチルはユメから学ぶことばかりだ。
「別に、買いたい本なんて好みの問題だからなんでもよくない? それより、早く確認しよ」
ユメは急いで会計して、店の外に出る。
ベンチに腰を下ろして、二人で該当のページを開く。
【鎌倉エリア人気セレクトショップ特集・ワンダーウォーカー】
【今年でオープン5周年を迎えたこちらのお店。店主が自ら世界をめぐり集めた雑貨や民族衣装は、どれも一見の価値あり。一点物が多いので早い者勝ちです。今年のオススメ服はアオザイ、部屋を艶やかに演出したい人にはトルコランプがオススメ】
店内の写真も数点載っていて、クルタにサルエルを着た男性が写っている。
ショップのマップと各種SNS、ホームページのURL、QRコードも載っている。
「わあ、あたしこういう店すごく好き! 日本にいながら海外旅行しているみたいでいいね。でもなんでこのページだけ切られてたんだろうね」
ユメはさっとスマホを本にかざして、QRコードからホームページに飛ぶ。
「すごいね、ホームページもすっごくオシャレ。ええと、なになに……」
ホームページを見ていたユメの手が、急に止まった。
「どうしたの、ユメ」
ユメは黙ってスマホの画面をミチルに向ける。
【店頭にない商品の仕入れ希望などありましたら、気兼ねなく店主・蛇場見歩にお問い合わせください】
歩という名前の人はいくらでもいるけれど、この珍しい名字まで一致する人はそうそういない。
ガイドブックから切り取られていたページに載っていた店は。
二十年以上前に家を飛び出した叔父、歩が営むセレクトショップだった。
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