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安全なレールを歩いてきた人
「蛇場見歩って、ミチルちゃんの叔父さんだよね。ねえ、ちゃんと自分のお店開いてるじゃん! 夢、叶えてるんだよ! 行ってみよ! 会って話してみようよ!」
「待って、駄目だよ」
ユメがミチルの手を取って走り出そうとする。シャツの裾を掴んで止めた。
「なんで止めるのさ。駆伯父ちゃんはいつもバカだ無理だって言ってたけど、高校辞めてもやりたいことできるってことじゃん。あたし、話を聞いてみたいよ。勉強しなくたって好きなことできるならそうしたいよ」
「駄目だって。母さんが渡してきたガイドブック、叔父さんの店の記事だけ切り落としてるんだよ。叔父さんのこと知ってて、あえてそうしたってことでしょう」
記事を切り取ったのが父なのか母なのかはわからないけれど、ミチルに教えたくなかったのではないかと勘ぐる。
毎日、大卒していい企業に務めるのが正解だと言ってきた父。
中卒で家出しても、夢を叶えられた生き証人がそこにいる。
高校を出なくてもやりたい仕事をできるなら。
ミチルだって、行きたくもない大学に嫌々通わされて、血を吐く思いで就職活動なんかしなかった。
(あの時間は、ボロクソに罵られてきた就職活動の日々は、なんだったの。写真に写る歩叔父さんは、こんなにも楽しそうに笑っているのに。歩は道を間違えた人間で、大学を出て、いい企業に行くのが安定で安心って、父さんは言ってたのに)
ユメのシャツを掴んだ手が震える。
敷かれたレールをぶち壊して、好きに生きた叔父が幸せそうにしている。父が過ちだと、馬鹿だと言う道に行ったのに。
安全なレールを言われるまま歩いたミチルは、心も壊して引きこもり。
(私の二十三年は、なんだったの)
ミチルはミチルなりに頑張って、勉強してきたのに。
この道を歩いて幸せだと感じたことがない。
涙が出た。一度流れた涙は、止まらなくなる。
「…………なんで。私は何を間違えたって言うの。父さんが言う正解を歩いてきたのに。わからないよ」
「ミチルちゃん……」
ユメはミチルが泣き止むまで隣に座り、手を繋いでいた。
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