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帰宅すると、ミチルとユメはもう寝ているようだった。
リビングにいたのは美優だけ。
十時をまわったばかりだし、今どきの高校生ならもう少し遅くまで起きているものだと思っていたから意外だ。
「おかえりなさい、駆さん。麦茶飲む? 水分不足になると二日酔いになってしまうでしょう」
「……そうだな」
そんな気分でもなかったが、素直に麦茶を受け取って飲んだ。
「同窓会、どうだった?」
「…………べつに。疲れたからもう寝る」
ひとことだけ言って、部屋に戻った。
部屋の電気をつけると、机に置いたままにしていたスクラップブックが目につく。
弟の……歩の店の記事を集めたものだ。
これでもう三冊目になる。
歩は五年前に夢を叶えた。
店のオープンを知らせるハガキが来たときは、怒りとなにか別の気持ちがごちゃごちゃになった。
ハガキには、歩と、家出を手助けした友達が店の前で並ぶ写真が載っていた。
歩の友達は何度も遊びに来ていたから、駆とも面識がある。
だから駆は、その友達のことももちろん責めた。
「馬鹿なことするな。高校中退のガキが自分の店を開くなんて不可能に決まっている! 家出を手助けするなんてあまりにも無責任だろ、お前! 歩が途中で諦めたら責任取れるのか!?」
馬鹿な友達は怒鳴られようとどこ吹く風。
「『お前にできるわけない』『無理に決まっているから最初から挑戦するな』そう決めつけて夢を見ることすら許さない家族のほうが、よほど無責任だとぼくは思う」
それからもう一つ付け加えた。
「それと、ぼくはお前でなく初田初斗。何度か名乗ったのだから覚えてください。歩は必ず夢を叶えるよ。ぼくは信じている」
中卒で親の支援もない奴が自分の店を持つなんて、できるわけがない。信じるなんて本当に馬鹿な友達だ。
一ヶ月もしないで「父さんたちが正しかった。兄さんもごめんなさい」と泣きついて帰ってくると思っていた。
一度も、帰ってこなかった。
一度も、泣き言の電話すらして来なかった。
歩は自分の夢を叶えた。
馬鹿な友達の言った通りになったのだ。
店の場所は知っていても、一度も行ったことはない。
行ったら、負けるような気がする。
行くことはないのに、歩の店が地域新聞や雑誌に載るたび、駆は記事を切り抜き集めていく。
ウェブサイトで特集されたらそのページをプリントアウトして貼る。
どうせすぐ潰れると思った。
潰れてしまえば、それ見たことかと笑ってやったのに。
歩の店は日を追うごとに人気になっていく。
間違えた道を進んだのに、どうして。
オープンを知らせるダイレクトメール。
笑顔で写る二人を見るたびに、心の奥に燻っていた気持ちが再燃する。
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