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それから十数年。
大人になったミチルは空っぽだった。
満たされた人生を送れますようにという意味を込めて、母が名付けたらしい。名前負けにも程がある。
父の駆が「俺の母校に行くように」というから高校を選び、高卒より就職に有利になるぞと言われたから大学に入った。
大学の就職活動が解禁されて、自分には何もないと気づいてしまった。
ミチルの履歴書は、学歴欄以外は真っ白だった。
蛇場見ミチルという名前と学歴以外書けるものがない。
学年首席を取れても、履歴書にはテストの順位を書く欄なんてない。
面接対策本を参考になんとかそれらしい理由を書いて、担任が何度も面接練習をしてくれた。
四十件面接に行き全敗というのが、ミチルの全てを物語っている。
多くが圧迫面接で、心が折れる。リクルートスーツに袖を通すだけで吐き気を覚えるようになった。
中年の男性面接官の言い放った言葉が、心臓に深く刺さって抜けない。
「あのねぇ、大学出るだけの人間なら、毎年五十万人以上いるわけよ。去年もその前もね。
大卒しただけの人間は、君より前の時間に面接に来た十人、君以降に控えている二十人も同じなんだよ。
あー……ドングリの背比べっつうの? 学歴だけならね。君、他の子よりどこか一つでも優れているとこ、ある? ないんでしょ。
何したくて大学行ったの。何したくてうちを受けたの。そんなんでうちを受けて何ができるの?」
正論すぎて、何一つ返す言葉が出てこなかった。
大卒は同じ年度だけで五十万人もいる。来年も、その次も、どんどんと同じ大卒の肩書を持つ人は増える。
大卒なんて、武器にも何もならない。
夢を持ち、そのために資格の勉強などを怠らなかった人は最強。
ミチルは、教わったそれっぽい面接対策のセリフを暗唱するだけ。
父親に強いられたレールを言われるまま歩くだけだった。
そんな人間が、ここに来るために努力を惜しまなかった人間に勝てるはずがなかった。
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