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ミチルはユメに引っ張られながら家を出た。
近所のスーパーに行くのかと思いきや、ユメはなぜか駅に向かって一直線。
「ちょ、ユメ。スーパーはそっちじゃないよ。道が正反対」
「店の指定まではされなかったもーん」
「まさかおつかいにかこつけて、また観光するつもりじゃ」
「違うよ。さ、切符買って行こ!」
意図がわからないけれど、ついていくしかない。
鎌倉駅で降りて、ユメはスマホを見ながらズンズン進む。
「あ、あそこだ! 入るよミチルちゃん」
「え、ちょ」
エスニックな雑貨がショーウインドウに並ぶ雑貨店の前に立つ。
あの雑誌に載っていた写真そのままだ。
「こ、ここって、ワンダーウォーカーじゃない。なんで……」
ミチルは昨日、行くべきじゃないって言ったのに。
「あのね、ミチルちゃん怒るかもしれないけど、あたし昨日お店のSNSにメッセージしたの。歩さんに今のミチルちゃんのこと伝えて、そしたら昨日の夜、返事が来た。昔のこと、ミチルちゃんと話ししてもいいよって。今日は定休日だからゆっくり話せるって。きっとなにかつかめるよ」
「いつの間にそんなことを……」
好きなように生きて、夢を掴んだ叔父。
会って話したいような、会うのが怖いような。
自分のことを馬鹿にしていた兄の娘になんて、会いたくないかもしれないのに。
でも、話すことでこのもやもやした気持ちが少しは晴れるなら。
CLOSEの札が下がる扉の前に立つと、向こうから扉が開いた。
鮮やかなライトブルーの髪をした、美しい男性が出てきた。黒のアオザイが怖いくらいよく似合っている。
ドアノブを掴む指先はグラデーションしたブルーのネイルで彩られている。
この人が、蛇場見歩。
父が、駄目人間だと言い続けてきた人。
顔立ちはどことなく父に似ているのに、まとう雰囲気は正反対。
カラーコンタクトを入れているらしく、ミチルを見る双眸はブルーだ。
父のような厳格さは欠片もなくて、笑顔は柔らかい。
「あら。もしかしてアンタがミチル?」
ユメとミチルが並んでいるのに、歩はひと目見て、すぐにミチルがわかったらしい。
「歩、叔父さん。な、なんで、わかったんですか。私がミチルだって。名乗っていないのに」
「兄貴と顔が似てるし、兄貴とおんなじでものすごく石頭っぽそうな雰囲気だから。隣にいるのが、昨日メッセージしてきたユメでしょう?」
「うん、そう。あたしがユメ。歩さん、話聞かせて」
「そうね。長くなりそうだから、中で話しましょう。お茶くらいはごちそうしてあげる」
仕草も言葉遣いも、どこか女性的な人だ。
歩は嫌な顔一つせず、笑ってミチルとユメを店内に招き入れてくれた。
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