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「あのね、ユメ。アンタが勉強が嫌で高校に行きたくないなら勝手にすればいい。でも、アタシもアンタの親も責任を取らないわよ。責任を取るのはアンタ自身。中退だとバイト探すだけでも一苦労よ。面接のたびに辞めた理由をつつかれることになるわ。で、面接官はみんなこう言うの『高校の勉強すら嫌で投げ出した人間だ。うちの仕事もどうせ嫌になったらすぐ投げ出すんだろう? 雇うわけがない』って」
「ええええー! でも歩さん、こうして店を持っているじゃん! 好きに生きても意外となんとかなるってことでしょ?」
「確かに夢を叶えたし、あの家を出たこと後悔していないけれど。安直に考えるのはやめなさい」
ユメは頬をふくらませる。
“歩が高校辞めて家出しても夢を叶えた”その一点しか見えていない。
そんなユメを、歩は優しく叱責する。
「アンタは糖蜜の井戸で暮らしているカエルなのね。カエルどころか、足すら生えていないオタマジャクシかもしれない。……アタシが実家を出てからの二十四年、一秒の苦労もなく遊び暮らしていたと思うなら大間違いよ」
歩は目を伏せ、深呼吸する。
深く、深く息を吐く。
そして店を開くまでのことを語った。
店を開業したのは五年前。
逆説的に言えば、ここにたどり着くまで、十九年かかっている。
ゼロから開業資金を貯めるのには、かなりの時間を要する。
セレクトショップだから、商品を集めるのにも時間を要する。
旅館等の住み込みバイトで資金をためては海外に渡り、現地で生活して言葉を学ぶ。
日本語を話せる外国人は少ない。
だから、商品の仕入れをするためには相手の言葉で話さなければならなかった。
店を開くまでの細かなことは、高校からの友人である初斗が手伝ってくれた。
初斗も精神科医として独立開業をしているため、開業に必要な申告諸々の知識があった。
自分の店を持ちたいという夢が揺らがなかったからこそ、たどり着いた。
ユメは目に見えない、そういうものにも目を向けないといけない。
勉強が嫌だから。
そんな理由で辞めても、苦労するだけだし後悔しか残らない。
高校を辞めてすぐにつまずくのは目に見えていた。
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