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「アンタは今この瞬間から、親の援助一円もなしに生きろって言われたらできる? 持ち物はバッグ一つ。住むところはなし。このクッキーの一枚すらも買えない。自分が間違っていたって泣きついたって、二度と家に入れてもらえないわよ」
一文無し。面接を受けても、高校中退の家なしだと言う理由で蹴られる。
そんな状態で何ができるか。
歩の語り口は優しいのに、一言一言重たい。
「ここまで聞いた上でも、まだ高校をやめたい?」
「…………ううん」
昨日はあんなに勉強が嫌だと騒いでいたのに、ユメはとてもしおらしくなってしまった。
「ミチル。アンタはこれからどう生きたいの?」
「わからない。大学、父さんに言われたから、出ただけだから」
「そう。あのときのこと、まだ根に持ってるのね、兄貴は。………ねえミチル。父親に言われたから仕方なく選んだ道でも、地盤にはなっている。決して無駄ではないわ」
「地盤?」
意味がわからなくて聞き返す。
「世の中、大学を出てないと就けない仕事ってのもあるわ。大学を出ると、その分未来の選択肢は増える。そのうちアンタがなりたいと思える仕事ができたとして、応募の必須項目が大卒だったなら」
大学卒業したからこそ選べる道もある。
これまでの時間は無駄ではなかった。
そう言ってもらえると、親に言われて仕方なく歩いてきた日々が少しだけ報われた気がする。
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