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空っぽのミチル
「わあ、おっきいくも。とおくまでいけるのかな。ねー、ミチルおねーちゃん。ユメ、おっきくなったらくもになる」
ミチルと手を繋いでいた五つ下の従妹、ユメが空を指差しながらはしゃぐ。
ユメはまだ四歳だから、人間じゃなれないものでもなりたがる。
祖父母宅の庭で遊んでいたふたり。
ユメはさっきからなりたいものが、それこそ雲のようにもりもり増えていく。
「さっきまでネコになるって言ってたよね。その前には風になるって」
「うん。あ、スズメかわいい」
スズメは駆けてきたユメにおどろいて飛びさっていく。
「どこにとんでくのかな。とりになったら、ガイコクもいける?」
「行けるんじゃないかな。スズメは無理だけど、渡り鳥って、外国から日本に来てまた遠い国に飛び立つから」
本で得た知識を話しただけなのに、ユメはまるでヒーローを見るような目をする。
「すごい。ミチルおねーちゃん、なんでもしってるんだね! なら、ユメ、とりにもなりたい。かぜになって、くもになって、ネコになって、とりにもなるの」
「そっか。なれるといいね」
「うん!」
無邪気に笑うユメは、一日の間になりたいものが十個増えていた。
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