花形結芽

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『あたし、花形結芽、料理人になって自分のお店を持つことが夢なの!』  タブレットに映る桃色のハーフアップの女の子が言いそうなセリフが如何にも説明臭くてなんだか自分一人だというのに恥ずかしくて、書くのがはばかられる。正直、この少女は私の脳内で勝手に動いてくれない。この作品こそ、次の連載にふさわしいと思っていたはずなのに脳内で動き回るのは次々回作の主人公である。まぁ、元々次々回作が次回作の予定だったのを無理やりねじ込んだ私が悪いのかもしれない。それに、自分で作り出しておいてなんだが、花形結芽に魅力を感じない。それなのに彼女を次回作の主人公にするなんてやはり無謀だったか。    何故、わざわざ彼女を次回作の主人公にしたかというと、私にとって初代主人公だったからである。初代だから、デビューを心待ちにしているどの主人公たちよりも早く世に出してあげたかったのだ。  彼女との再会はちょうど一週間前、部屋の整理をしていた時だった。私は戸棚の奥に仕舞われた段ボールの中から一冊の自由帳を見付けた。小学生の頃、使っていたものだ。見るのも恐ろしいが、勇気を振り絞ってページをぱらぱらとめくってみた。友達と作った迷路や着せ替えゲームなど懐かしい。これは小四辺りだろう。そして小五になり、少女漫画誌を読み始めた頃から、漫画風の絵柄を真似た人の顔の絵が増え始めた。既存キャラとオリジナルキャラはちゃんとページが分けられていて、オリジナルキャラのページの一番左端に桃色のポニーテールの少女の首より上だけが描かれており、その下に「花形結芽」と書かれていた。  そして、横や下にはその作品に登場する仲間たちが描かれ、設定集まである。思い出した。確か、当時妹が見ていた変身ヒロインものプリティラブリーに影響されて自分でもオリジナルの変身ヒロインを作ったのだ。まぁ、オリジナルといってもマルパクリ感が否めないのだが……。テーマは夢で、結芽は料理人を目指しているおっちょこちょいな中学二年生、なんというか当時はそれでよかったのかもしれないが、今となっては薄い設定。でも、私の創作の原点だ。今の私がこの子を魅力的にしてあげられるかもしれない。そう思った私は彼女を次回作の主人公に選んだのだ。
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