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さり気なく辺りを見渡せば、わたしと同じ茶色の制服に身を包んだ新入生が、それぞれのフットマンと共に講堂を目指している。
今はC・D組の入場時間の終わり間際だ。
(暑……)
晩夏の陽射しはかなり強くて帽子が欲しいところだけど、顔を売るのも悪役令嬢の大事なお仕事。
「お嬢様の御髪は相変わらず眩しいですね。
段差、お気をつけて」
「自己紹介が必要なくて嬉しいわ」
「確かにお嬢様は、かの有名なローレンス様にそっくりですからねぇ。さすがご兄妹。今日も最高に美しくていらっしゃる」
「もっと大声で言ってもイイのよ? そうね……特別手当、出すわ」
「ふはっ! さすが我らのお嬢様。では一つ……。
おめでとうございますお嬢様!! ついにお兄君ローレンス様に次いでのご入学の日、誠に我らクォーツ伯爵家一門の誉れでございます!! きっと、ご婚約者のアンバー公爵後嗣様もお喜びのことでしょうっ!! 今朝届いた花束も実に素晴らしいものでございましたっ!!」
今日フットマンとして付いているのは、大叔父の孫。先々代当主から見れば三親等、先代当主から見れば四親等、現当主であるお父様から見れば五親等という、既に平民だけど親族枠で家内雇用している青年だ。
付き合いが長いうえ、裏表がない彼の性格は、わりと気に入っている。軽口が玉に瑕だけど、ノリがイイから重宝している。
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