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「彼女がアンバー公爵家の……?」
「クォーツ令嬢か……」
「なんて美しい……!」
「妖精貴公子の妹……!?」
我が家自慢のフットマンの朗らかな声は辺り一帯によく響き、周囲の視線をガッツリ集めた。
グッジョブ! 高らかに叫びたい。
(やっておしまい、あらほらサッサーって感じ? いや、ちょっと違うか? ……残念)
でも、これで労せずして、わたしの存在は知れ渡ったはず。しめしめ、だ。
お兄様は学生時代、その見た目と柔和な人当たりと懐の広さで名を馳せた。そのせいで、卒業し、伯爵家後嗣として領地運営に励んでいる今でも、宮中への引抜きの声がかかる。
身長が伸び、顔つきも少し凛々しく見えるようになった兄と比べると、わたしはかなり華奢で弱そうに見える。
ボンキュボンとまではいかなくても、ちゃんと出るところは出てるんだけどね? 弱そうに見える時点で悪役令嬢としてはマイナスだ。どうせなら、ダイナマイトバディになりたかった。
でも、
「失礼ですが、ご令嬢。よろしければエスコートを……」
「あら、本当に失礼ですわね」
女の攻撃力は腕力ならず!
(ウチの情報力、ナメんじゃないわよ)
「あなた……婚約者が居ることを隠して他の女性に声をかけてまわるような恥知らずな方、例えコーニャ伯爵が許そうともわたくしは許しません。おどきになって?
では、ごきげんよう」
颯爽とやって来たイケメン風クズを笑顔でざっくり切り捨てる。
一見、か弱そうだからこそ、わたしの毒舌は効果が増すらしい。夢破れた気分というか、騙された気分というか、やけに心にダメージがあるのだそうだ。
(……悪役令嬢なんてつまり、嫌なヤツならイイんでしょ? )
頬を引き攣らせる「イケメンもどきのゴミ」をその場に残し、わたしは堂々と講堂の扉へと向かう。
両開きの扉は大きいけれど、建物の規模からするとやや小さい。防犯上の配慮か何かあるのだろうか。
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