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「ご苦労様だったわね」
悪役令嬢っぽくフットマンにあっさりした一言だけ投げて入った講堂は、思ったよりずっと明るくて、冷んやりしていた。
内側すぐには、案内役が待機している。生徒のお手伝いなどではなく、メイドのような、雑務専任の学校職員が多数いるらしい。さすが設定厨の考えた貴族向けの施設だ。
連れられるまま、礼拝堂のごとく並んだ椅子に着席すれば、そこもさすが、貴族専用。ベンチな見た目と違って、クッションが効いてまっふりと座りやすい。
既に半分ほどが埋まっていた座席の、前方が徐々に埋まって行く。上級貴族の入場時間になったのだろう。
最後に御学友の一人を連れたアレクス様が靴音を響かせながら着席すれば、いよいよ入学式典の始まりだ。
学園の総責任者である傍系王族の御夫妻が壇上に上がって──
「ま、待って……っ!」
ふいに、細い声が静寂を破った。
何事かと一斉に振り向いた生徒達の視線の先には、ふわふわとしたピンクの髪が目立つ女子生徒。
荒い息を整えようとしているのか、揺れる背中が見える。
「わ……わたっ、わたし、遅刻っ…………すみませんでしたっ!!」
ガバッと顔を上げたかと思った矢先、今度は大音声が響いた。
貴族令嬢とは思えない声量に、わたしも思わず目を丸くする。
「お静かに……!」
案内係が慌てて彼女を壁際に連れて行こうと腕を伸ばして、
「エイミー・ブロンです! よろしくお願いしますっ!!
…………え? あれ? え??? どこに……?」
またしてもの大声に、ビクリと一瞬動きを止めた。
騎士団にでも入らない限り、張り上げた声なんて聞くことはない。貴族とはそういう生き物だ。
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