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「ここ最近ずっと緊張してるんだよ。約束までまだ一週間もあるのに」
カウンター越しに向かい合わせで座っている同じ顔の男が、自虐気味に笑った。一卵性の双子の弟、友馬だ。
身長はだいたい同じぐらいだが、体重はおそらく風馬よりも5キロは軽いだろう。体格も異なるうえ、仕事柄、常にスーツ姿であるから、まとう雰囲気はまったくといっていいほど違う。
風馬はアイロンのかかっていない自身のエプロンの裾を掴むと、シワをそっと払った。
「雅樹君が来るの、来週の土曜日だっけ? 大丈夫なの? 久々の再会でいきなり1ヶ月も同居するとか」
「不安だよ。ここ数年はずっと手紙のやり取りだけだったから、直接喋ってもいないし」
彼は緊張のためか口角を歪ませたが、それでも表情はここ最近では一番明るかった。
こんなに嬉しそうな友馬を見たのはいったい何年ぶりだろうか。
「部屋は掃除したわけ?」
「ずっと物置になってた部屋をようやく空けた。新しいシーツも買ったし、あとは自分の美容院だけ」
「なんでそこで美容院が出てくるわけ」
「久々に会って、おじさんになったなって思われたら嫌じゃん」
年月が経ちすぎているのだから、今更若作りしたところで——思いながらも、口角を上げるまでに留めておく。見栄を張りたい気持ちは、わからなくもない。
それよりも、友馬からごく自然に「美容院」という言葉が出てきたことに驚く。都心で働くサラリーマンは、皆こうも洗練されているものなのだろうか。
幼い頃は兄弟揃って近所の理容室に行っていたのに、なんだか差をつけられた気分だ。
ちなみに、風馬は未だにその理容室の常連客である。
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