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「心配しなくても大丈夫ですよ。客観的に見ても、友馬さんはシュッとしててかっこいいですから」
突然、里見由良の、のっぺりとしたフォローが滑り込んでくる。
まるで念仏のような——声にすら表情がないとでもいおうか。しかし、声質自体は明瞭で、決して聞き取りにくいわけではない。
里見は皿を下げて、空になった友馬のカップにお代わりのドリップコーヒーを注いだ。
「里見くんにそう言われると、少し自信つくよ」
「ええ。俺、嘘はつきませんから」
褒めてはいるのだろうが、相変わらず口角をぴくりとも上げない。
分厚い前髪の隙間から覗く目尻が、愛想で緩むこともなかった。
「でも、息子さん相手でも気になるものなんですね。自分の見た目とかそういうの」
里見が続けて言うと、友馬の表情が明るくなった。
元のとか義理のとか、そういった付属品を取り払った「息子」という表現が、単純に嬉しかったのだろう。
「小さい時は自慢のパパだって言ってくれたからね。会うの久々だし、雅樹の前ではいい格好したくて」
——友馬が結婚したのは、もう10年以上も前のことだ。
妻になった相手には雅樹というまだ幼い息子がいて、友馬は彼のことをとても可愛がっていた。
結婚生活そのものはわずか3年で終わったが、それ以降も雅樹との交流は続いていたらしい。しばらくは会ってもいたようだ。
しかし、やがて元妻——雅樹の母親が再婚すると、雅樹と会う頻度は激減し、たまに手紙のやり取りをするぐらいになった。
徐々に間隔が空いていく手紙のやりとりに、友馬は寂しげな表情を浮かべたものだ。
雅樹には新しい父親ができたし、彼は日々成長していく。自分との細々としたつながりも、そのうち途絶えてしまうのだろう、と————
ところが今になって事態は急転、10年以上会っていない元義理の息子である雅樹と、久々に会うことになったという。
なんでも「夏休みを一緒に過ごしたい」という内容を、雅樹のほうから寄越してきたらしい。
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