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こうなったのは、図書室に忘れられていた一冊のノートが原因だ。
大学受験を目前にしたこの季節、高校の図書室は参考書とにらめっこする三年生の姿が目立った。僕は物理のレポート課題をやろうかと空いている席を探していると、一番隅っこの机の上に、何かが置かれているのに気付いた。
近づいて見てみると、それは黒の無地のノートだということが分かった。名前も書かかれていなかったので、パラパラとページをめくると、そこにはみっちりと文字が書かれていた。手書きの文章を読むと、それはどうやら小説のようだった。
「え、兎川くん、それ、どうしたの」
その手書きの小説に夢中になっていると、僕とは同じクラスである彼女が、すぐ横に立っていた。活発なグループにいる彼女と、いつもぼっちな僕は今まで関わりなんてなくて、こうやって話しかけられたのも初めてのことだ。彼女は目をまん丸にして、僕と、僕が手に持ったノートを交互に見ている。
「どうしたのって、ここに置いていたんだけど。もしかして、宮崎さんのノート?」
「え、うん。えっと、もしかして、ノートに書かれたこと、読んでいないよね?」
「ああ、三ページくらいしか読んでいないよ。もしかして、この小説、宮崎さんが書いたの?」
そう言うと、彼女の目がさらに大きくなる。
「ちょっとこっちに来て」
彼女は僕の腕をつかみ、校舎裏まで連れていかれたのだ。
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