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終わる関係
身体を大きく揺すられて目を覚ます。ひんやりと冷たい地べた·····。いや、ひんやりレベルではない冷たさ。
「理人さん、こんなところで寝ていたら風邪引きますよ。これ羽織ってください」
肩にずっしりと重みがかかり、声に促されるままにコートを羽織った。
薄く瞼を開けるとそこには栗山がいて、腰を屈めて此方を覗き込んできている。
彼と会う時は必ずあげられている前髪が今は目にかかるほど無造作に下りていて、見慣れたスーツはパーカーにモッズコートと普段着だからか、一瞬誰か判別できなかった。でも、声音から栗山で間違いない。
吐く息が白い。
辺りを見渡すと見上げた先には先程中にいたはずの店の看板があった。ここはどうやら店の外のベンチらしい。
今いる場所が外だと認識すると途端に寒くなりコートの前を合わせて身を縮こませた。
「立てますか?」
栗山に手を差し伸べられる。正直、立ち上がるのも面倒くさいが流石に凍てついた空気の中でじっとしているのは身体に毒だ。
「お前、おせーよ」
櫂は栗山の手を弾いて振り払うと自力で、壁伝いに立ち上がる。
身体が多少よろけてしまうが、少し酔いが醒めて意識がはっきりしてきた。
「駅前のお店片っ端から当たって貴方を探したんです。見つけたら見つけたで、理人さん、酔い潰れて熟睡していたのでお店の人迷惑がっていましたよ」
覚束無い足取りで先を歩いては栗山に身体を支えられたが「触るな」と突き放す。
栗山は潔く離れては、自分の後を着いて来ているようだった。
縋りたいと思って連絡したくせに、等の本人を目の前にすると冷たく突き放してしまうことに反省しながらも、着いて来てくれるのが嬉しい。
「そうだ、くりやまぁ。お前ん家どこ?今からヤろうぜ」
呂律が回らないまま問いかけては、振り返る。
そもそもその為に呼び出したようなもので、今こんな状態で栗山に狂ったように抱かれれば今日のことも忘れられそうなそんな気がしていたからだ。
唯の肌を重ねるだけの友達。いつもと同じように提案しただけ。しかし、栗山はどこか浮かない表情をして黙っていた。
「理人さん、もう止めませんか」
栗山はその場に立ち尽くしたまま一歩も動かない。
「はぁ?」
櫂は栗山の言葉の意図が掴めずに眉間に皺を寄せて彼を睨みつける。
「俺、耐えられないです。今日の帰り、理人さんが俺の連絡を無視したのって井波さんと会ってたからですよね?」
「はぁ?何でお前がそんなこと……」
栗山にはメッセージの返信はしていないし、和幸の話も慎文の話も詳しく話したわけではない。
そもそも此奴が何で和幸のことを知っているのか不可解でならない。
「理人さんは俺のこと全く興味ないから知らないと思うけど、俺は井波さんと同じ会社の営業なんです。正直、井波さんとは仕事上で話すだけで親しいわけじゃないけど、偶に経理に立ち寄ることがあるので、面識はあるんです」
知らなかった。栗山は毎回会うたびスーツであることから何処かの会社勤めだろうとは思っていたが、彼の素性など興味がなかった。
どこかで話していたのかもしれないが、多分聞き流していたのだろう、記憶にない。まさか思わぬところで繋がっていたとは思わなかった。
「だから、今日の帰りに偶々。会社前で男の人と貴方が並んで井波さんを待っているところを見たんです。あの隣にいた人は、理人さんの好きな人ですか?」
「なわけないだろ。俺は特定の相手なんかを好きにならない」
踏み込まれたくない過去。慎文を好きになってしまったことは自分の汚点だ。
けれど、恋心に未だ未練がないといったら嘘になる。栗山にだけは踏み込まれたくない。
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