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徹史がベッドの上から理人さんに向かって問うと、眉間に皺を寄せて「なんだ?」と問い返してくる。
「理人さん、来週はクリスマス前で忙しくて会えないから、再来週末の二十六日。仕事終わったらすぐにホテルじゃなくて、一度食事をしませんか?レストラン予約していて……」
人を食事に誘うだけでこんなにも緊張したのは初めてかもしれない。布団を握りしめて、彼の表情を伺うと険しくなる一方で雲行きが怪しい。
「っふ。お前と食事?そんなことしてなんのメリットがあんの?腹減ったらルームサービスでもとればいいだろ」
徹史の提案を聞き入れるどころか鼻で笑われる。此処までは想定内だった。とはいえ、改めて感じる理人さんの淡泊さに心が捻り潰されそうになる。
「あ、いや……。本当は気になっていた人を誘おうと思って三カ月前から予約していたんですけど振られちゃって……。友人を誘うにしてもそんな畏まった場所に誘うような間柄でもないし、キャンセル料かかってしまうので、勿体ないかなって思って……。お金は勿論、俺が払います」
『本当は貴方との時間をもっと作りたくて……』だなんて言えない。嘘を吐くことへの後ろめたさはあるけど、こうでもしないとこの人は頷いてくれない。
「へぇ、お前に気になる奴とか居たんだな。男?女?」
あなたです……。最初からずっと……。
瞳で訴えたところで伝わることはないし、仮に伝わったとしてもその時点で終わってしまう関係であることは薄々気づいている。理人さんは誰かにとって特別な相手になることを嫌がっていることはこの半年で嫌でも良く分かった。
「それは……。内緒です」
自ら吐く嘘に胸が苦しくなるが、縁を切られることの方が徹史にとっては苦痛だった。
「ふーん。そういうことなら、いいよ」
「本当ですか⁉ありがとうございますっ」
深い関係を築くための誘いではないと分かれば、直ぐに安堵した表情を見せる理人さんは狡いけど、何処か見放せない。彼をそうさせているものは何なのか気になるが、食事の誘いを受けて貰えただけでも大きな一歩だと思いたかった。
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