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「……ないわけじゃない」
僅かに彼の口元が歪む。
「あるんですか?どんな人ですか?」
純粋な興味もあったが淡泊な理人さんが好きになった人くらいなのだからどれほど魅力的な人だったのだろうか。徹史が身を乗り出して問うたせいか、理人さんは「なんでお前に話さなきゃなんねぇの」と怪訝そうな表情を見せてきた。
「いつも淡泊な理人さんが好きになる人。純粋に気になるんです。それに、俺の今後の参考にしたいので教えてください」
一見冷たく突き放してくる彼でも、根は面倒見のいい優しさがあるのか、徹史が折れずに押し続けていれば理人さんの方から折れてくれたりする。敬意を込めて、逸らすことなく理人さんをじっと見つめ続けていると、向かいから大きな溜息が聞こえてきた。
無意識なのかスーツの胸ポケットから煙草を半分出したところで、舌打ちをする。
「……っ。分かったよ」
徹史の執念が効いたのか、理人さんは手元にあったワインを飲み干し、ウェーターにおかわりを頼むと半ば投げやり口調ではあったが話してくれる気になったみたいだった。
「よくも悪くも一途な奴だった。他に好きな人がいてさ、そいつしか見えていなくて、最初は遊び程度で関係持っていたんだけど、だんだん情が湧いてきたんだよ。丁度、クリスマスだったかな……。そいつの誕生日に奴の好きな人の代わりになって抱かれてやったんだよ。好きな奴に俺じゃない名前呼ばれながら抱かれてやんの。うけるだろ?まぁ、最初から割り切った関係だったし、今じゃいい思い出だよ」
自虐的に苦笑を浮かべながら、もう一度ワインに口をつける理人さんの表情がどこか苦しそうだった。本人はいい思い出だと言っているが、好きな人に他の誰かの身代わりとして抱かれるのは想像しただけでも、胸が張り裂けそうになる。
理人さんは真面に誰かと愛し合うような恋愛をして来なかったのではないだろうか。だから恋人を作ることを拒絶している。恋心を持ったとしても叶わない、想い合うだけ無駄だと思ってしまっている。
誰かと想い合えることの喜びだとか幸せを知らないのだろう。
俺がこの人を救えたら……。
「理人さん。提案なんですけど、今日はこの後、恋人っぽくシませんか?」
そんな貴方を俺の愛で満たしてあげたい……。
「はぁ?なんで急に」
「疑似体験ですよ。こうやって食事もしていることですし、いいじゃないですか。たまには違う感じでするのも」
素直に『俺は貴方が好きだから抱かせてください』なんて言ったら、理人さんは拒絶すると分かっているから、あくまで何時ものセックスの延長線上として持ち掛けてみる。
「別に何時もの感じでいいよ。そんなの要らな……」
理人さんの言葉を遮って、徹史はテーブルの上にあげられた彼の右手を掴んでは、優しくナイフを持っていた指を解く。そして彼の指を折りたたんでやると両手で彼の手を包み込んだ。
動揺しているのか、黒目を泳がせて徹史の顔を見ようとしない理人さんが少しだけ手の内を見せてくれたみたいで可愛い。
理人さんの可愛い顔、もっとみたい……。
俺の愛で悦ぶあなたをみてみたい……。
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