それでも好きな人(櫂said)

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 櫂だって馬鹿ではない。 もしもの為に念には念をと暗証番号を入れなければロック画面を解除できないようになっていたはずだが、指をスクロールさせている姿から栗山はロックを解除済のようだった。 「お前、なんで俺のタブレットの暗証番号知ってんだよ」 「勘です。前に理人さんが好きだった人とのクリスマスの話をしていたので……。もしかしたらと思って……」  栗山は得意げに笑みを浮かべて画面のスクロールを続ける。 確かに昨年末に栗山に誘われてディナーをした。 その時に慎文の話をしたような気がするが、櫂にとってその日のことはあまり思い出したくない出来事だった。  ディナーの後で栗山から唐突に『恋人のように抱く』と言われ、優しくされる度に慎文に抱かれたことを思い出して怖くなって逃げ出した。 そんなことをする栗山を軽蔑したこともあったが、三十路手前でセフレを探す困難さと奴との相性の良さから結局栗山を切ることはできなかった。  とはいえ一時の会話から暗証番号を当てる此奴も此奴だが……。 好きだった人を忘れられず、あからさまに好きだった人の誕生日に設定する自分もどうかしている。  やっぱり、替えどきだよな……。  それ以前にタブレットを放置して席を外していた自分にも非はあるが……。  栗山が見たところで今入っているのはせいぜい物産展の資料。 栗山は櫂とセックス後の戯れがしたくて気を引いているのだと分かっているので、櫂は深く溜息を吐くとベッドの隣にあるソファに腰を下ろして煙草を咥えて火をつけた。 案の定、栗山はそんな櫂を見て「つれないなー」と詰まらなそうに頬を膨らませる。 「へぇー。理人さんの働いているデパートで物産展やるんですね」 「ああ」  お前が見たところで全く興味ないだろと心の中で比喩しながら、煙を吐きだす。 「やぎた農場?」 「ごほっごほ」  まさか栗山がピンポイントでその名前を口にするとは思わず、櫂は動揺から噎せ返してしまった。 「此処の農場の場所って理人さんの地元ですよね?」 「さぁ……。お前に地元の話ししてたっけ」 「はい。道東のド田舎出身だって……」 「そう……」  栗山との関係に私情を持ち込みたくないと思っていても、必要最低限の雑談はしないわけにいかない。 地元の話しくらいはしていたかも知れないが重要視するようなことでもなかった。 現に櫂自身は栗山の地元や仕事の話など全く知らない。 本人が話していたかもしれないが記憶にないほど興味すらなかった。 「知り合いだったりします?」  櫂は表情を伺いながら探りをいれてくる栗山を訝しんだ。
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