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「だから何だ」
「いや、もしかして前に話していた理人さんの好きだった人なのかなーって」
普段はへらへらとしている癖に妙に勘がいい。好きだった人だからと言って栗山に話す義理はない。
櫂は苛立ちを込めて、灰皿に吸いかけの煙草を押し付けると、ベッドで寝転がっている栗山からタブレットを奪い取った。
「余計な詮索してくるな。今すぐにお前を切ってもいいんだからな」
これ以上、私情に踏み込んでほしくなくて脅しをかけてやると栗山は「それは困ります」と櫂の右腕を強く引っ張ってきた。
奪い取ったタブレットは床に落ち、ベッドの上に倒れた櫂に栗山が覆い被さってきた。
「ねえ、理人さん。来週は理人さん忙しくて会えないから今日は泊まりにしませんか?来週の分も前借させてください」
先程済ませたばかりだというのに、栗山はにこやかに提案してくる。
確かに物産展も始まるしその後はすぐにクリスマスに入るので繁忙期のピークを迎える。栗山と情事に更けている暇はなかった。
だとしても、既に二回ほど絶頂を迎えた体で再び誘われたことにギョッとした。
中学はバスケ部であったし、体力がないわけではないが、栗山の若さゆえのあり余った体力と絶倫さには呆然とさせられる。
しかし、優しくされるよりは壊れるくらいまで抱かれる方が櫂にとって好都合であった。
ましてや苦い過去を思い出す名前を見た後だから尚更。
人肌は感じたいけど、恋だとか愛だとかの感情はいらない。恋人のようにイチャつきたがる奴は正直言って面倒くさいが、櫂には選択肢がない以上贅沢は言っていられなかった。
櫂が気にするほど執着してくるわけでもないし、一定の距離感は保ってくれている。
奴も二十代前半で遊び盛りだろうし、いずれ終わりは来るかもしれないが栗山との関係は居心地いい。
「わかった。好きにしろよ」
「やった。ありがとうございます」
浮ついた声と共に栗山の唇が首筋に落ちてくると、身に付けたはずのバスローブが脱がされていく。何も考えることが出来ないほど抱かれれば、あいつのことも忘れられると望んで……。
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