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駅前通りにある居酒屋で櫂はひとりで酒を飲んでは酔い潰れる寸前だった。
ひとりで呑みに来ていた訳ではない。正確にはひとりになってしまった。
あの後カズくんこと、井波和幸の真意を確かめるために嫌がる慎文を連れ、彼が勤めている会社で本人を捕まえた。
半ば強引に呑み屋に連れてきたはいいが、和幸はおろか慎文も黙り込んでいて、櫂はどうにかして場を盛り上げるのに必死だった。
自分がこの二人に嫌われていることが、ヒシヒシと伝わる。
和幸を揺さぶるために慎文と下世話な話しで煽っても自分は関係ないと言いたげにそっぽを向いた。
それが気に食わず、櫂はしつこく慎文に問い詰めたことで彼の逆鱗に触れたのか、慎文の手を引いて店を出てしまったのが数十分前。
見定めるどころか、あんなのを見せられたら完全に二人が相思相愛であることは一目瞭然だった。
櫂は二人がいなくなってから途端に寂しくなり、酒を浴びるように呑んでは現在に至る。
気だるげにスマホを弄っていると、ふと栗山の無視したメッセージが目について既読にした。
こんな自分を本気で愛してくれるやつなんかいない。
このまま家に帰ったら寂しくて、きっと二人の姿を想像しては悲しくなる気がした。
櫂はスマホの通信アプリの通話ボタンをタップすると耳に押し当てる。
二コール目で電話の奥から『もしもし、理人さん?』と栗山の声が聞こえてきて安堵した。
栗山はいい。セフレということもあって情に流されず気楽に接することができるし、櫂がほしいときに必ず連絡を返してくれる。
「くりやまぁー。どこにいんだよ」
『どこって家ですけど』
寂しさからセフレに頼るなんて虚しさが増すが、高校や大学なんて拗ねらせ過ぎて腹を割って話せる友人はいなかった。
そんな浅い人間関係しか築いていなかったせいか、セフレ以外作ったことがないし、そのセフレでさえも今は栗山しかいない。
「今から来いよ」
『来いって、どこにですか』
「駅前通りの居酒屋」
『駅前通りって言われても困ります。そもそも今日は俺、理人さんのこと誘ったのに返事してくれなかったじゃないですか』
いつもは素直に「分かりました」と返事をくれる栗山が珍しく怒気がこもった口調だった。
「ごちゃごちゃ、うるせーな。早く来い。馬鹿」
つべこべと言い訳をしてくる栗山が鬱陶しくて趣旨だけ伝えて電話を切るとテーブルにスマホを乱暴に置く。
あの様子だと栗山は来ないかもしれない。奴には奴の予定があるだろうし。
もともと肉体だけの淡泊な関係であるから、相応の同意がなければ来なくて当然だった。
だけど櫂自身、誰かに縋りたくてたまらなかった。
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