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第4話
数日後。
相変わらず、インターホンが鳴らされ郵便受けに四つ折りの紙が投函されるという嫌がらせは続いていた。
ある日、仕事帰りに自宅近くのコンビニに立ち寄ると、ふと見覚えのある女性の姿が目に飛び込んできた。──間違いない、日菜美だ。
あれから、もう十五年近く経っている。だから、当然ながら外見は変わっていたが、面影は残っていたからすぐにわかった。
(紗菜の言っていた通りだ……まさか、本当に近くにいるなんて)
やはり、ここ最近続いていた嫌がらせの犯人は日菜美なのだろうか?
鼓動が少しずつ早まってくる。私は彼女に気づかれないように踵を返すと、店を後にした。
自宅マンションまで走ってくると、エントランスで見覚えのある後ろ姿を見つける。
(……紗菜?)
彼女は、どうやらエレベーターを待っているようだ。
何となく、声をかけるのが憚られたため私は隠れるようにして観察することにした。
一体、こんなところで何をしているのだろうか?
それから程なくしてエレベーターが到着し、紗菜は中へ乗り込んだ。
やがてエレベーターのドアが閉まったかと思えば、私の部屋がある三階へと上昇していった。
(私に会いに来たのかな……?)
そう思いながらも、私は階段から三階へと向かうことにした。
三階に着くと、私はすぐさま身を隠す。案の定、紗菜は私の部屋の前に立っていた。
そのまま様子を窺っていると、彼女は鞄の中から何かを取り出した。そして、それを郵便受けに投函すると、インターホンを鳴らした。
(え……?)
呆気にとられながらも成り行きを見守っていると、紗菜は逃げるように踵を返しエレベーターへと駆け込んだ。
エレベーターの扉が閉まったのを確認すると、私は自分の部屋に戻った。そして、郵便受けに手を突っ込み、紗菜が投函したであろう紙を取り出す。
手に取ったそれを広げてみると、いつも投函されているものと同じ文章が目に飛び込んできた。
見慣れているはずなのに、信頼していた幼馴染が投函したものかもしれないと思った途端、吐き気にも似た感覚を覚えた。
私は紙を握りしめると、それを乱暴にゴミ箱に捨てた。
(どうして……? てっきり、嫌がらせの犯人は日菜美だと思っていたのに……)
でも──今思えば、紗菜はストーカーの正体が日菜美だと思わせようと誘導していたような気がする。
日菜美がこの近くに引っ越してきたのはただの偶然で、紗菜はそれを利用して彼女に罪を被せようとしていた──そう考えると、合点がいく。
(でも、なんで……? どうして、紗菜はあんなことまでして私と和樹の結婚を阻止しようとしていたの……?)
もう、誰を信じたらいいかわからない。
私は、ただ心を蝕んでいく不安に押しつぶされそうになりながら日々を過ごすことしかできなかった。
すっかり疑心暗鬼に陥ってしまった私は、新居への入居を延期することにした。
とりあえず、メンタルが安定するまでは実家にお世話になることにした。「気が済むまでのんびりしたらいいよ」と言って気を遣ってくれた両親には頭が上がらない。
和樹も「実乃里の不安が解消するまで、いくらだって待つから」と言ってくれている。とはいえ、早く解決しなければと気持ちは逸るばかりだった。
紗菜を問い詰めれば、きっと今まで通りの関係ではいられない。だからといって、このまま知らん顔を続けるわけにもいかない。
(どうすればいいんだろう……)
壁にかけられたカレンダーをぼうっと見つめていると、スマホの着信音が静かな室内に響き渡った。相手は紗菜だった。
出ようか出まいか迷っていたら、いつの間にか指が触れて繋がってしまっていたらしい。すると、私が返事をする前に彼女は話し始めた。
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