大捕物

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大捕物

「スミス様、こちらですっ・・・」 俺は見慣れた城の中の回廊を走り回り、息が上がっていた・・・急がなければ、少年の命がないという。 「本当なのか?今日、人体実験が行われるというのはっ・・・」 俺が息も絶え絶えに騎士に質問すると、一緒に来ていた騎士は、自信ありげに答えていた。 「間違いありません・・・あの方は、早く仕事を切り上げておられましたし、実験室の鍵も持ち出された事が確認されています」 「そうか・・・」 魔術師団の団長が反逆罪の罪で捉えられてから半年・・・団長の座は未だに空席だった。今の魔術師団は、よくない噂しか耳にしない。現に・・・今、向かっている魔術師団、副団長のイーリヤは、経費を誤魔化して私腹を肥やし、奴隷商から奴隷を引き取っては、人体実験を行っているという。 「人体実験か・・・何を考えてるんだか」 俺は先日、叔父から公爵の地位を譲り受け、今の職場を今月末で退職する予定だったが、どういう訳か『大捕物』に参加させられていた。 俺の城での所属は、魔術師団長が捕まった時に新しく設置された『監視管理団』だった。 その名の通り、城内で規律の乱れがないか、若しくは不正が行われていないかを『監視・管理』をする仕事だ。 プレイボーイだと思われている俺には、1番向いてない職場だった。 「スミスは、ああ見えて真面目だからなぁ。いいと思うよ」 メンバーの選定に困っていた宰相閣下は、陛下のひと言で、俺の所属先を決めてしまった。確かに俺は『ちゃらんぽらん』に見えて実は真面目だ・・・だが、違うだろ。 実験室の前に辿り着いと、部屋の中から啜り泣く声が聞こえ、悲鳴が上がった。 「監視管理団第一部隊所属のスミス・サクフォンだ・・・ドアを開けろ。でなけりゃ蹴破るぞ」 「スミス様、もっとお手柔らかに~」 騎士が何か言っているが、小声すぎて聞こえなかった。中で物を退かしたりする音を聞いて、証拠を消されては不味いと思い、ドアを蹴破った。 「なっ・・・お前は!!」 水色の髪をした少年が鎖に繋がれているのが目に入った瞬間、俺はイーリヤ副団長を張り倒していた。 「す、スミス様~やり過ぎです。その人、死んじゃいます!!」 騎士が俺の手を掴んで、ハッとした・・・頭を掌で掴み、床に叩きつけていたのだ。 俺は掴んでいた頭を床へ放り投げると、少年の元へ走った。6、7才くらいに見えるその子供は、両手に手錠を掛けられ、全裸でベットの上で蹲っていた。俺は着ていた上着を少年に着せると、抱え込むように抱きしめていた。 「怖かったな・・・もう大丈夫だ」 震える少年を抱きしめ、俺は少年の背中を撫で続けた。 「良かった・・・この人、死んでなかったですよ、スミス様・・・もう!!管理団の仕事は、皆に規律を守らせることが仕事なんですよ・・・何やってるんですか?」 「すまん。俺は来月、退職予定だし・・・後は、お前に任せた」 「はあぁ?!聞いてませんけど!!しかも、俺は騎士団所属だし!!」 「俺の方から、叔父上に推薦しとくよ」 俺は少年を優しく抱え上げると、「ギャーピー」うるさい騎士を現場に残して、少年を医務室へ運んだのだった。
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