ある日、白い繭

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 事の始まりは、ダウンコートがまだ手放せない日の事だった。 今年の冬の寒さが、思いのほか緩かった反動なのかどうなのかは解らないけれど、水仙が咲き始めた頃に、冷たい雨が連日降り続いた。  そんな雨にも負けず、約束された事のようにソメイヨシノの蕾が大きく膨らんで、もう間もなくその薄桃色の花が咲きはじめようとしている時の事だった。  なんの前触れも衝撃もなく、それは現れた。私が知ったのは、その日の朝の地方ニュースだった。しかし、まさかこんな事が現実に起きる理由がないと思っていたので、半信半疑で映像を観ていた。 スマホがピロッって鳴ったから、すぐに画面を確認した。 「星菜(ほしな)、観た? なにあれ?」 親友の智美(ともみ)からだ。 「観た観た! あれなんやろね?」 「不思議なこともあるもんやなぁ」 「ほんまに、なんなんやろなぁ」  その時、私たちはどこか他人事だった。 だって、それが何であれ、誰かがどうにかするんだろう。そんな感じでしか見ていなかったから。
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