ある日、白い繭

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ある日、白い繭

 玄関の引き戸をガラガラと音を立てて開けると、むわっとした熱気が一気に入ってきた。  今日の私は、白のカットソー、デニムのホットパンツ。足元はローヒールのサンダルだ。背中には大きめのリュックを背負っている。まだ朝なのに、手をかざしても強い日差しを感じる。太陽が空の真ん中に来るお昼頃には、もっと暑くなっているのだろう。  長い白髪を、べっ甲色の(かんざし)で品よく纏めている着物姿のおばあさんが、木の桶から柄杓(ひしゃく)で掬った水を石畳に向けて霧のように撒くと、ほんの一瞬だけ通り雨のような音色がした。とても心地よい音だ。  そうして二度三度同じ様に雨が降ると、一気に体感温度が下がって、思わずふうっと息を吐いた。 「おはようさん。 朝早うから、どこいかはんの?」  着物姿のおばさんは、いつも私を気にかけてくれている。 「あ、今日も調査〜。 ほんまあれ、一体なんなんやろね?」 「ほんまやなぁ。 ようわからんなぁ」  そっちも気になるけれど、今は水撒きのほうが優先度が高い様子で、おばさんは素焼きの鉢から伸びている、朝顔の根元に優しく水を注いだ。  五本ある竹の支柱はどれもが細く、結び目は麻紐で結ばれている。瑞々しい青緑の葉をつけた朝顔は、蔓をくるくると伸ばし、そこにしっかりと掴まっている。咲いてるのは三輪あって、班入りの鮮やかな赤色は、中心に向かって真っ白になっている。それから、明日の朝には目覚めそうな蕾が二つ。 「綺麗な赤色やね」  少し見惚れてながら言うと、おばさんは、 「そやろ〜。 私な、朝顔好きやねん。 特に班入り赤色のん」 と言いながら、笑顔で私を見てくれた。目尻や頬に寄るしわも美しい。こういう年の取り方をしたいと、ふと思った。
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