たこ焼きにも砂糖をください

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知らない人間の屋台に乗り込み、いちゃもんをつけるだなんて、随分と図々しい男だ。 ただでさえ、嫌いなことを仕方なくやらされてる隼斗には、『仕事なんだから真面目にやれ』とかいう仕事人根性ははっきりいってクソ喰らえだった。 むしろ、鉄板の熱気の上に、他人の奇声を無理矢理聞かされてるという、隼人からすれば最悪の環境なのだから、売ってやって有り難く思え、というのが本心だった。 もちろんそんなこと口には出さないけれど。 が、口に出ずとも態度に出てしまうが隼人の悪いところだった。 そんな隼斗の態度を見て、察したのだろう。 男は慌てた様子で腰を低くし、身振り手振りで説明し始める。 「違うんやって! 本当に単純に一人で可哀想やから手伝ったろかなって思っただけなんや。あ、勿論、ボランティアやで! 」 「放っておいてください」 「そんな頑なに断らんでもええやん」 「ボランティアとか必要ないんで」 「いや、だか……」  手に汗がにじむ。  Tシャツの脇には汗が染み込み、じわりと色が変色していた。 夏の暑さと、鉄の熱気が隼斗を包み込むせいで、頭もそれほど回っていない。 なにより自分の頭をむしばんでいるのは、父と兄への憤り。 そして自分の視覚や聴覚を際限なく攻撃してくる、大勢の人間たちの存在そのもの。 ーーなんで。 ーー自分はこんなことしたくないのに。どうして説教されなくてはいけないのか。  だからつい言ってしまった。 「うるさい!俺、アンタみたいな図々しいタイプの人間が一番嫌いなんだよ!」 それに、根っからの社交家で、世渡りが上手いタイプの人間がーーと隼斗は心の中で付け加える。  完全に八つ当たりだった。  それを聞いた男は、しょぼくれた様に肩を落として、 「わかったわ。ごめんな。 」 と言って、その場を去って行った。 その背中はとても寂しそうで、隼斗はそれまでの熱が一気に冷めたが、遅い。 追いかけて謝罪するだけの、勇気も行動力も素直さも自分は持ち合わせていなかった。
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