たこ焼きにも砂糖をください

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おかげで今は、隼斗ひとりで屋台を切り盛りしている。 ーーなんでオレがこんなことを……。 ーー牡丹踊りなんて、断ろうと思えばいくらでも断れたくせに。 あの二人は、親子だというのに根っから気が合うのだ。 隼斗とは対照的に、社交家だし、友人も多く、世渡りが上手い。 隼人からすればそれは”自分のやりたい事のために、他人に嫌なことを押し付けるのが上手い”のと同義だ。 隼人は知っていた。 父が、祭りのあとに行われる打ち上げで、母の目を盗んで大酒を飲んでいることを。 兄が、祭りに来た若い女連中を無暗やたらにひっかけて、一夜限りの夜を過ごしていることを。    考えれば考えるほど、頭痛が生じてきそうになる。 それよりも今は。 「はあ……」 隼人は、丸いくぼみが均一に並んだ鉄板に目を向ける。 屋台の接客なんて何を差し置いても威勢がいいのが第一だというのに、まったく愛想を振りまけない自分。 絶望的な状況だった。 (ーーしかも) 「兄ちゃん、大丈夫か?」 (なんか変なやつに絡まれてるし……! ) 金髪の男はいまだ店の前に居座り続けていた。 これっぽっちも立ち去る兆しがないどころか、どんどん距離が近づいてきている。 ……ような気がする。 目の前は鉄板だぞ。 煙たくないのか、そんな場所にいて。 「いや、たこ焼き欲しんやなくて、なんや客商売苦手そうに店やっとるからさ、ちょっと手伝ったろか思て」 男は慌てたように弁解するが、親切心であれ何であれ、今の隼斗にはただの目ざわりな存在でしかなかった。 「いえ、大丈夫ですから」 「そうか? 」 「はい」 「心配やな……」 「本当に大丈夫なんで」 強気な口調で隼斗が返すと、「ふーん」と、納得いってない様子で去って行った。 やっと行った、と安堵した隼斗は仕事に戻り、 「いらっしゃいませー…」 と通りの人々に声をかけた。 すると、先程の男がドタドタと走って戻ってきた。 「いや、ちゃうやろ!もっとこうテンションをぐぁっと上げな! 」 「はあ? 」 「誰も聞こえてへんて、そんなんやったら! 」 「いや、聞こえてるじゃんアンタ」 「いや!それはだから、君が『大丈夫』って言うから、どんなもんか聞き耳立ててただけで……」 男は必死に隼斗に訴える。身振り手振りが凄まじい。 しかし隼斗はほとんど聞いてない様子で、迷惑そうに顔をしかめた。 そして一通り言い分を聞いた後、全ての作業の手を休止して、 「何なんですか、あなた」 と言った。
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