たこ焼きにも砂糖をください

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それからあの男が戻って来ることはなかった。 隼斗は、次にあの男に出くわしたら謝ろうと心に決めて、仕事を続けた。 ななめ向かいのたこ焼き屋が、大声で接客して繁盛しているのをチラチラ見ながら、隼斗も自分なりに頑張り続けた。 何人かは買ってくれたが、やはりそう上手くはいかない。 材料も作り置きもこのままじゃ大量に余る。 父はともかく、あの何かと癇に障る兄に怒られるのは間違いない。 「たこ焼き、2パックちょうだい」 気付けば目の前に、40半ばの中年男が立っていた。 土木現場か長距離配達員として働いてるような、だぼっと余裕のある作業服、頭に巻き付けたタオルの中に収められた髪、その下から覗くナイフのような鋭い眼ーー隼斗は少し手が震えた。 「せ、千円です……」 なんせ、慣れてないのだ。 隼斗は今年で21歳になる。 高校卒業後、地元の小さな食品工場に就職。 つまり一日中黙々と調理や盛り付け作業をしているか、会話にしても決まった人間と話すだけで、膨大な知らない人間と言葉を交わす機会なんてなかった。 そんな隼斗の態度見たおっさんは不満そうに言った。 「なんか兄ちゃん愛想悪いなあ」 「…はあ」 「はあって何? ったく、他のとこで買えばよかったな …」 「これ、千円です」 「わかってるつの 」 男は財布から金を出そうとするが、小銭をとるのに少し手こずっていた。 隼斗はその様子にうんざりして、たこ焼きをひっくり返し焼き始めた。 その様子を横目で見た男は、 「なんかオマエ腹立つな 」 と、言った。
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