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「は…」
「なんかオマエ腹立つなあ」
「と言われましても…」
「金出してんのはこっちだ。出すまで待つかなんかしろや」
ああ、怒ったのはそのせいか、と隼斗はここでやっと男が怒った理由を理解する。
しかし接客をしている最中に、次の業務を行うのはめずらしいことではない。父や兄もやっているし、行列ができるような人気店ならなおさらだ。
そんな当然の流れが癇に障ったのだとしたら、よほど自分の態度が悪かったのだろう。
「焼いた方が効率いいので」
「客もほとんどいねーくせに、何が効率だっつの! 」
「こちらのことに口出ししないでください」
「うるせークソが!」
男は、バンッと、屋台の壁を勢いよく蹴った。
器具や材料が倒れ、作り置きしていたたこ焼きのパックが地面に落ちた。
しかも、驚いて身体を動かした勢いで隼斗の指が高温の鉄板をかすめる。
「っ!」
「ざまあみろ」
「あなたが勝手に怒り出したからで…」
「あ? オマエ、いい加減にしろよ。そんな生意気な態度で、商売できると思ってんのか!」
男は低く声色を変え、憤りを訴えるように囁いた。
隼斗の方も怒りが抑えきれず、一触即発の状態だ。
ーーその時、
「おい、何やっとるんや!」
焦りと怒りの混じった甲高い声が、どこかから、人ごみをかきわけて矢のように飛んできた。
この声、聞き覚えがある。
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