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「すみませんお客さん、この子まだ不慣れなんや。でも、お詫びになるかわからんけど、たこ焼き美味いから貰ってーな。頼みますわ」
そう言いながら、必死で駆けて来たのは、あの金髪の男だった。
おどろいたのは、最初の一声とは対照的な、へらへらと締まりのない陽気な表情をしていたこと。
「……なんだお前」
「こいつの兄貴です。いつも俺が店やってんのやけど、用事があってちょっとだけ代わってもらってたんです。全部俺の責任なんで、教育しときますから。すみません」
「ちっ」
関西弁が流暢に謝ると、男は隼斗を睨みつけながら帰って行った。
隼斗は安堵と、中年男に対するこらえきれない怒りで、その場に座り込みそうになる。
しかし下には、すでに地面に転がった道具を、たんたんと片付け始めている金髪の男がいた。
「……なんで戻って来たんだよ」
結局、自分の口から出たのは、素直な謝罪とは程遠い文句だった。
男はこちらを振り向くことなく、道具や具材を一つ一つを丁寧に拾い上げながら、静かに口を開く。
「何でってそりゃ、心配やって言ったやろ。俺、家がたこ焼き屋でな。子供んころからバリバリに接客やってるから気になるねん」
「……だけど、あんな謝らなくても」
「せやな。あんま謝んのも格好悪かったな。ヒーローみたいに殴り倒せば恰好ついたのに。ただ俺も最初から見てたわけじゃないから流れもわからんし、警察沙汰になったら迷惑かけることになるからな。……とりあえず謝り倒して許してもらえるんなら、と思ってさ」
「……そういうの、大きなお世話とか思わねーの」
「思うよ」
隼斗は目を見開いた。
「でも、俺が世話焼きたいのは、上から目線で君の接客態度を正してやろうとか、足りないものを補ってやろうとかそういう事じゃないねん。ーーあのままやったら、さっきみたいな客と喧嘩になるのは見えてたから、ヒヤヒヤしてただけなんや」
「それって結局、正そうとしてるってことじゃあ……」
「いや、ちゃうちゃう。だから俺が手伝うって言ったやろ? 」
「ほら、これ持って」と、隼斗は男からたこ焼きの生生地の液体が入った、ステンレスの粉次ぎと油指しを手渡される。
状況が理解出来ず、え、と声を漏らした時にはもう遅かった。
「見とってみ。ぎょうさん、客呼び込んだるわ」
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