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満面の笑顔で大きく口を開き、声を張り上げる男がそこにいる。
通りの向こうまで響くその声に、さっきまで見向きもしなかった人々まで次々と足を止めていく。
ななめ向かいの同業なんて目じゃなかった。
ただでさえ、金髪のスラッとした長身ーーしかも、目力が強くて意外と整った顔立ちをしている。
隼斗は目が釘付けになった。
「ああでも、半分はウソやわ」
「は?」
客が誰一人いなくなった時、見計らったように男は呟いた。
隼斗が声をあげて彼を見ると、男はまっすぐ、通りを向いたままだった。
あくまで、客をを呼び込むための、器用な笑みは崩さない。
そうして言った。
「さっき、心配や、って言ったやつ」
彼がカモーー若い女の子達を見つけて、笑顔を向けながら手招きすると、彼女達は嬉しそうに人混みをかき分けてこちらへ来ようとする。
隼人との会話の方に集中しているのか、客を捕まえても、今までのように手を振って派手に喜ぶ様子はない。薄い笑みを浮かべただけだった。
彼女達が来るのを待ちながら、微笑む男は言った。
「俺、ゲイなん。 そんで、君をナンパしてんの」
一瞬、声が出なかった。
「は……」
言葉の意味を理解して声が出そうになったときには、女の子たちが店の前に来て、「たこ焼きちょうだーい」と媚びるような声で男に話しかけていた。
一人で頭の中が真っ白になって混乱していると、男が隼斗の方を振り向いた。もう女の子たちは帰っていた。
それまでの愛想笑いを消して、太陽のように歯を見せて笑った。
「君、可愛いやん。可愛いから、とりあえず友達になりたかったんや」
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