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「よかったな、兄ちゃんが戻って来てくれて」
隼人達は近くの公園を散歩していた。
あの後、踊りの出番を終えた兄が戻って来て、隼人と入れ替わってくれたのだ。
兄は社交性のない弟の隼人を何かとバカにしていたので、自分への当てつけで、実力を披露するつもりだったのだろう。
しかしその頃には、もうたこ焼きは完売間近だった。
兄は目の前に起きたことが信じられないよいうように、材料から売上金からすべて確認、計算し、大急ぎで父に電話していた。
ーーたこ焼き、全部売り切れてんだけど!隼人が、売ったって!
大声で一言一句報告するさまを見て、つくづくこの兄は自分のことを信用していない、と隼人は思った。
たしかに、自分一人の手では処理できなかっただろうから、兄の言うことも的外れではない。
しかし、今の隼人はそれよりも、ただ純真な信頼を必要としていた。
呆れた隼人は結局、兄を放置して、金髪の男とともに近くの公園に逃げたのだった。
「まあ、ええやんか。君が兄ちゃんに拗ねる気持ちもわからんでもないけど」
兄に苛立つちブツブツつぶやいていると、金髪男がそうなだめるように言った。
ああ、そうだった。
今はこんなことでイライラしている場合じゃない。
隼人はおそるおそる、あのさ、と話かける。
「お前、さっき……その……ゲ」
「ゲイってーー本当やで」
「……」
男はすがすがしいほど明快に言い切った。
最近は題材にしたドラマも多いし、頭の中では遠い存在ではない。
けれど現実で会ったことのなかった隼人としては、存在だけは聞いたことがある宇宙生命体に出会ったような不思議な感覚だった。
いや、会っていたとしても、男女のように見た目である程度判断できるものではないから気付く術もない。
「はっきり言って、めっちゃ好みやねん。君、自覚ないかもしれへんけど、めっちゃ良い顔立ちしてんねんで。最初見た時、思わず二度見してもうたわ」
「はあ」
それは母から何度か言われたことがあった。
”せっかく顔はマシなのに、引っ込み思案で暗い性格がそれを相殺してる”……って。
しかしまあ、かっこいいことを言っても、結局は見た目かよ。
容姿を褒められても嬉しくない。
隼斗からすれば顔は、外すことが不可能な装飾品でしかないからだ。
「なんや?結局は顔かよ、って思ってる?」
図星を突かれてギクリとなった。
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