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曇の日に晴れた日の事を思い出している。庭にはかりんの木があって、十一月も終わる頃だ。中盤フィルムで撮った様な青空に撓わに雲が流れる。色をいよいよ伴った実は、少し枯れた実から遠かった。陽の光りが茶色にあたる。しわしわになっている。土竜がこしらえた山を、僕の右足は崩した。
先週、ビクトル・エリセ監督のマルメロの陽光を観た為か、彼の作品の音楽が止まない。少し萎れたかりんの実を見ていると、マルメロの陽光が聴こえる。パスカル・ゲニュの音楽。別段、思い入れもないそれ。思い入れがあるものというのは、どこか自分に馴染んでいる。そうでない、例えばあの曲の様なものは、腰を上げて試みる。人はわざわざ、そうするのだ。だからはっきりと聴こえて来るのかも知れない。まあ実際にそうだ、とは思わない。思わないでおく。
口に氷を入れた。勿論、想像だけれども。顔に陽が当たり熱かった。
僕のスノッブ的側面は秋の日和とともに、光沢を帯びている。まだ。
いつか、色など分からなくなる。空を見ると雲は増えていた。
君もまた優しさのために、性格を壊すのではないか。
それも悪くない。悪くない。秋といえば中原中也だ。部屋に這入るとき、すたれた網戸に葉が引っ掛かっているのが見えた。中原だ、そう思った。実は夏も好きだ。
机に向かう。闇が煩くなり窓がガタリコと揺れる。風がおもてで呼んでいる。応答はしなかった。其れが僕等の掟だ。
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