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今日は部活が早めに終わった。雨宮は教室で宿題をしているらしい。家では集中できないから、だそうだ。一緒に帰ろうと思って事前に伝えていた時間よりは早いけれど大丈夫だろう。
久しぶりにコロッケが食いたい。コロッケを売っている肉屋のおばちゃんは雨宮のことがお気に入りらしく、毎回おまけをしてくれる。イケメンだとやっぱり何かと得だ。少なくとも、平凡な顔の俺はそう思う。
教室のドアに手をかけようとした時、中から話し声が聞こえてきた。ドアの上部分はガラスになっていて、教室の様子が見えるようになっている。
教室には雨宮と井口がいた。2人は向き合っている。天気のいい放課後は夕日が教室にさしこんでまぶしいほど明るくなるらしい。いつだったか、雨宮が言っていた。
雨宮が井口の顔に手をかざした。あいつら、何してるんだ? すると、まるで棒になってしまったかのように井口は背中から床に倒れてしまった。雨宮は動かず、その場に突っ立っている。
「おい!大丈夫か!」
ドアを開け、教室へと入っても雨宮は立ったまま井口を見つめていた。
「井口!」
顔をのぞきこむと、井口の目は開いたままだった。なんとなく蝋人形のようにみえる。
人間にそっくりだけど、生気がない。
ふいに視界が暗くなる。雨宮が俺のひたいを覆うように手をかざしていた。目が合う。雨宮は泣いたり怒ったりなんかしていなかった。そこに感情はなかった。ただ、底なし沼のような闇があった。
頭の中で何かが弾ける音がした。
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