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「お前さ、おとといの放課後、花壇にいただろ」
雨宮と一緒に昼飯を食っていると、同じクラスのやつが俺たちの席まで来て言った。井口だ。でも、グループが違うからあまり話したことがない。
「俺、見てたんだよ。雨宮、お前が花に手をかざしたら元気になったよな」
「は?」
こいつの言っている意味が分からない。花が元気になった? 雨宮もいきなり意味不明なことを言われて戸惑っているのか、固まっている。
「今月の夏、園芸部が植えた花が踏み潰された事件があったの覚えてるか」
それは確かにあった。今もまだ犯人は捕まっていない。
「その数日後、花は元通りになっていた! あんなにめちゃくちゃに踏まれていたのに! なあ、あれもお前がやったのか?」
井口は近くにあったイスを引っ張ってきて雨宮のそばに座った。
「お前さあ、さっきから何言ってんだよ。映画の見すぎだろ」
井口は俺の言葉を無視したが、雨宮から目を離そうとしない。その視線から逃げるかのように、雨宮は俺を見る。
雨宮くんってついつい助けてあげたくなっちゃうような顔してるよねー、という女子たちの言葉を思い出した。なんだよ、こっち見るなって。
「あれは魔法だ! お前、魔法使いなんだろ?!」
「え……違うけど」
残念ながら雨宮の声はまったく届いていない。井口は雨宮の両手を握って振る。
「しおれた花をそのままにしておけなかったんだろ? 話しかける前から分かってた! 雨宮は心が優しい人間だって!」
「そうでもないけど……。あのさ、手を離して……」
雨宮の言葉は今度も届いていないようだ。
「雨宮!お前が何か困った時にはいつでも呼んでくれ!必ず力になるから!」
「……うん。ありがとう」
「ついでに上野のもな」
「俺はついでかよ?!」
もはや否定することに疲れたのだろう。雨宮は困ったように笑った。井口はようやく手を離し、自分の席へと帰っていった。
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