1

3/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 理科の先生が「太陽はあと数年で死にます」と豪語している。それを聞いて、御崎が胃もたれしているような表情を浮かべた。 『死ぬんじゃない』  年々と太陽の燃える力が弱まっているのは事実だった。気温も太陽が活発に生きていた時より全然低いし、真夏日なんて言葉はもう死語だ。 『死んだら俺らも死ぬんだよね?』 『うん』 『死にたくない』  御崎がじっと私のことを見つめた。その真っ黒な瞳から彼の強い訴えを感じる。 『まだやりたいこといっぱいある』 『なに一つ達成できてない』  太陽が死んだら、私たちもすぐに寒さに耐えられなくなり凍死します。 『(つづみ)だって死にたくないでしょ』  久しぶりの鼓呼びに一瞬動揺した。いつもは苗字の香林(こうばやし)って呼ぶのに。 『死にたくないよ、当たり前じゃん』 『私だってやりたいこといっぱいあるし』  大学に行って、大好きな文学についてもっと学びたい。卒業したら出版社に就職して、いつか大好きな作家の担当になりたい。でもそんなの叶わない。高校を卒業できても、大学生にはなれない。その前に太陽は死に、私も死ぬ。  色んな所に旅行に行きたいし、彼氏だってほしいし、もっと友達と遊びたいし、読みたい本リストだって読破できていない。大好きな作家に会うことだってできていない。やりたいことはいっぱいある。でもそんなのたった数年で、達成できる訳がない。 『人生100年時代の世界に行きたいな』  生きている時代が違ったら、きっとこんな想いはしなかった。どうして私はこの時代に生まれてきてしまったのだろう。こんな終末世界に生まれて、人生なんて何も楽しくない。 『俺も、その時代に生まれたかった』
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!