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理科の先生が「太陽はあと数年で死にます」と豪語している。それを聞いて、御崎が胃もたれしているような表情を浮かべた。
『死ぬんじゃない』
年々と太陽の燃える力が弱まっているのは事実だった。気温も太陽が活発に生きていた時より全然低いし、真夏日なんて言葉はもう死語だ。
『死んだら俺らも死ぬんだよね?』
『うん』
『死にたくない』
御崎がじっと私のことを見つめた。その真っ黒な瞳から彼の強い訴えを感じる。
『まだやりたいこといっぱいある』
『なに一つ達成できてない』
太陽が死んだら、私たちもすぐに寒さに耐えられなくなり凍死します。
『鼓だって死にたくないでしょ』
久しぶりの鼓呼びに一瞬動揺した。いつもは苗字の香林って呼ぶのに。
『死にたくないよ、当たり前じゃん』
『私だってやりたいこといっぱいあるし』
大学に行って、大好きな文学についてもっと学びたい。卒業したら出版社に就職して、いつか大好きな作家の担当になりたい。でもそんなの叶わない。高校を卒業できても、大学生にはなれない。その前に太陽は死に、私も死ぬ。
色んな所に旅行に行きたいし、彼氏だってほしいし、もっと友達と遊びたいし、読みたい本リストだって読破できていない。大好きな作家に会うことだってできていない。やりたいことはいっぱいある。でもそんなのたった数年で、達成できる訳がない。
『人生100年時代の世界に行きたいな』
生きている時代が違ったら、きっとこんな想いはしなかった。どうして私はこの時代に生まれてきてしまったのだろう。こんな終末世界に生まれて、人生なんて何も楽しくない。
『俺も、その時代に生まれたかった』
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