ママ、もういちど笑ってよ

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それから時々、お総菜を買いに行くようになった。 男性はいつも私たちを笑顔で迎えてくれた。 少しずつ会話を交わすうちに、彼のことがわかってきた。田島さんは私より5つ歳上のバツイチで、この店はお母さんが始めたそうだ。 「先月、母が入院しましてね。一人じゃとても無理なので、パートさんに来てもらってます」 「料理も意外と体力要りますよね」 彼の作る料理は季節を取り入れた飾らないものばかりで、子どもたちの舌にとても合っていたようだ。好き嫌いの多い佑が、お代わりするぐらい食べてくれるようになった。 「今日のおすすめは大人向けなんですよ。そう言えば、ご主人はどんなものがお好きなんですか」 ある日突然尋ねられて、私は言葉を失った。 …そうか 子どもがいれば 夫もいると思うよね 突然のことで上手くごまかせなかった。表情を硬くした私を見て、田島さんはすぐに何かを察してくれた。 「あ、でも。男っていつまでも味覚が子どもですよね。僕もハンバーグとかカレーとか大好きですし、何なら週3でもいいくらいですよ」 明るく返されて、私も少し微笑む余裕が出た。 「…週3は多いですよ」 「母も呆れてました。食事の支度は楽ですけどね」 「ねー、おじちゃん。このカレー何入ってるの」 佑がカレーの鍋を指差して尋ねる。 「今日はね、鶏肉とセロリがメインなんだ」 「えー、セロリ?」 田島さんは楽しそうに佑の方へ歩いていった。 「僕のカレーを食べたら、佑くんもきっとセロリが好きになるよ」 「そうかなぁ」 智も混ざって三人が仲良く話をしているのを見て、何だか泣きそうになった。夫に暴言や暴力を振るわれた佑は男性をとても怖がるのだが、初めて来た時からいつもリラックスした様子で彼と話をしている。 あの時、から揚げと一緒に彼の優しい匂いも嗅ぎつけたのかもしれない。 子どものために離婚を決めたはずだった。 佑の言動に必要以上に過敏になる夫は、次第に手をあげるようになったからだ。万が一にも何かあってからでは遅いし、そんな夫に愛情が冷めたのは確かだったが、智に至っては顔すら覚えていないのだ。 子どもにはやっぱり父親が必要なんだろうか。 私は酷い母親なんだろうか。
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