ママ、もういちど笑ってよ

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「今日はお休みですか」 「いえ。ちょっと医療センターまで…」 「何かありましたか」 彼の笑顔が消えてきゅっと引き締まった。 「…佑が怪我をしたって保育園から連絡があって。元気みたいですけど」 「心配ですね。よかったらお送りしましょうか」 「でも…」 「今日はこの雪で臨時休業なんです。駐車場に停めてありますから、どうぞ」 彼が親身になってくれているのが伝わってきて、私は恐縮しながらもお言葉に甘えることにした。 促されて助手席に乗り込み、シートベルトを締めた。暖房を強めに入れて、彼は滑らかに車を発進させた。 少しの間沈黙があった。慣れない空間で男性と二人きりになり、急に体が強張ってしまう。 いつもお店で 何を話してたっけ… 大抵は料理の話から広がっていく。 「こないだのカレーおいしかったです。牛スジは手間がかかるのに、あの値段なんて」 「いや、大丈夫ですよ。ちゃんと回収できるように上乗せしてますから」 彼は視線を前に向けたまま、嬉しそうに笑った。 「田島さんのお料理は子どもたちも大好きで。佑なんておかげさまで好き嫌いがなくなったんですよ」 「それは嬉しいな。母親の味を再現してレシピを書き留めてるんですよ」 会話が続いてほっとした。 10分ほどで車は医療センターに着いた。 「助かりました。ありがとうございました」 「帰りはどうされますか」 「そこまでしていただいたら申し訳ないです。時間がどれだけかかるかもわからないのに」 彼がふと考え込んだ。 「じゃあ、後で店に寄ってください。何か作っておきますよ。佑くんが元気になるように」 田島さんはそう言って微笑むと、車をUターンさせて帰っていった。 『バツイチの理由も確かめときなさいよ』 心配する母の言葉を思い出した。ちゃんとお互いを知らないと、また子どもたちに寂しい思いをさせてしまうのは確かだった。 それでも、少なくとも彼の優しさは本物に思えた。
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