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「料理って共通点で仲良くなったんですけどね。僕がこの店を継いでから、何かおかしくなっちゃって」
それまでは二人とも料理教室で講師をしていたそうだ。彼女はゆくゆくは自宅を改装して、お洒落な教室を開くのが夢だった。夫が母親の素朴な店を継ぐと決めたのが不満だったらしい。
「僕と母が店を一緒にやらないかって、持ちかけたのも気に入らなかったみたいで。追い詰めるつもりなんてなかったのに」
自分の思い描いた夢とかけ離れた現実に、愛情も急に冷めてしまったと告げられた。
「料理が出来ればどこでも満足な僕と、かなり開きがあったんだろうね。どうしても自分の理想は捨てられないって言われたよ」
「惹かれあった共通点が、お別れのきっかけになるなんて寂しいですね」
彼に大きな原因がなかったことに、私は胸を撫で下ろした。しかし、彼が打ち明けたら今度は自分も伝えるべきかと思うと、急に緊張してきてしまった。
「未紗さん」
不意に名前を呼ばれてびくっとする。
「未紗さんの事情もあると思います。つらかったら今は話さなくてもいいです。でも、僕はこれからの人生を君たちと歩いて行きたいと思ってます。それだけは覚えておいてください」
「田島さん…」
「僕は子どもを持ったことはないですけど、佑くんも智くんも大好きだし、仲良くしたいと思っています」
言うまでもなく二人は彼のことが大好きだ。
今の言葉を聞いたら、きっと喜ぶに違いない。
「ありがとうございます」
心なしか彼の笑顔はすっきりして見えた。
「今度、皆で出かけませんか」
「はい。楽しみにしてます」
デートはいつも4人だった。
彼はいつも子どもたちのリクエストを優先してくれた。公園でピクニックやサッカーをする手近なものから、日帰りで遊園地や海や山にも出かけた。
そして、大抵お弁当を作ってきてくれる。
いくら仕事のついでとは言え、個人的に甘えてしまうのは気が引けたが、彼もそして何より子どもたちがとても喜んだ。
少しずつ距離を詰め、子どもたちは彼を名前で呼ぶようになった。季節が過ぎてまた次の秋になる頃には、4人でいることが違和感なく日常に溶け込んでいた。
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