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「すまないね。仕事が立て込んでいて今日はここで食べるつもりなんだ」
「そうだったの? じゃあ、私が食事を持ってくるから昭は、さちさまが食べれるように準備していて」
「おいっ、忙しいと、って……はあ、話を聞かない奴なんだから」
砕けた言葉遣いで幸乃と話す昭を見て、さちはなぜか突然、昨日女中が言っていた言葉を思い出す。
『昭さまには長年お慕いしている方がいらっしゃるのですよ』
この言葉だ。
結婚するからといって昭がさちに好意を向けてくれるとは思ってはいないし、ましてやこれからともに生活をして好いてくれるとも思っていない。好いた相手がいるのならその相手と生涯添い遂げたいはずだ。
「立ち話もなんだし座って。僕は準備をーー」
「……仲が良いのですね」
準備を始めた昭に思わずそんな言葉がこぼれてしまう。慌てながらぱっと口元に手を持って行ってしまうが、昭は驚いた声を上げながらもなんとも思っていないように笑う。
「え!? ……ははっ、昔からの付き合いだからね。家族のような関係だからなんでも言い合えるせいか、僕には容赦がないんだよ。……あっ! 決して幸乃となにかある訳ではないからねッ!?」
「いえ、気軽に言い合えることはいいことだと思います」
「えっ、あっ……うん。そうだね。……さちさんも僕にもっと気軽に話してくれてもいいんだよ。そうだな、昭さまだとなんだか他人行儀みたいで嫌だな~。昭さんって呼んでみてよ」
すこし目を落としたもののすぐに顔を上げて、じっとなにかを期待するようにさちを凝視する昭。ふわふわと雑面が揺れてそれはなんだか、ゆっくりでも大丈夫と言われているようでさちは意を決して口を開く。
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