十話.休館日の準備

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(――昭さまに好いた方がいたのならば、私は邪魔な存在になってしまう。だけど、私は……)  そんな時。さぁっと風が吹き、ひらひらと桜が舞い、さちと幸乃の雑面も大きく揺らぐ。さちの瞳は雑面の黒い視界から明るい本当の視界が露になる。それは幸乃もだったらしく、目を見開く幸乃が鮮明に見えてしまう。 「……ぁっ」  そこではじめて幸乃と本当に目が合ってしまう。幸乃の感情を読もうとしているわけでもないのに、人の心を勝手に読みたいなんてこともないのに顔を背けるひまもなく、幸乃の声は勝手にさちの耳へと届いてしまう。 『――私の好いた方は』  久しぶりに頭の中に響く声に痛みが走るが雑面がすぐに顔に落ちてきたため、最後まで幸乃の声がさちに届くことはなかった。 「…………」 「…………」  数秒の沈黙だったにも関わらずそれは数分ともいえるほど長く感じるほどだった。そんな沈黙を先に破ったのは幸乃の笑う声だった。 「――あははっ、私が昭を? さちさん、ご冗談はよしてください。私と昭はただの幼なじみであり、主従関係しかございません。まあ、幼なじみですからね。好きなことには変わりありませんが、そこには決して男女に芽生えるような感情はありませんので、ご安心してください。……そして、どうしてそのようなことを?」    優しく、だが、眉をひそめながらすこし探るような幸乃の視線から威圧感を感じてしまい、さちはすこし肩が揺れる。
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