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八話.はじめてのおでかけ
「これで神花館のご案内はすべてになります」
神花館を見て回り幸乃と初めて出会った場所へと戻ってくる。昼時なのか表は朝よりもがやがやと賑やかな声が聞こえて来る。名前は知っていたさちだったが自分の目で神花館を見て、やはり巫とは比べようがないほどの大きな、人気な旅館だということを再確認する。
(……神花館を見て回ってなんだかまた、私なんかが嫁いできてよかったのかと不安が戻ってきてしまったみたいだわ)
どくどくと早くなる心臓に思わず手を添えながら不安で思わず顔を下げてしまうが、幸乃に声をかけられてさちは顔を上げる。
「なにか気になったところはありましたか」
「いえ、とてもすてきなお屋敷で……」
「ふふっ、ですよね。では、今日の所はここまでにいたしましょう。そろそろお昼ですからね、昭さまのもとへ行きましょうか」
頷くさちを見て幸乃は踵を返し、昭のいる屋敷へと向かう。
◇
「昭~、入るわよ」
幸乃はなんの躊躇もなく昭の部屋の障子を開ける。ばんっとすこし音がなり、昨日のように背を向け座っていた昭の肩がすこし上に上がる。
「幸乃、何度言ったら分かるんだ……障子はゆっくりと開けろと……って」
幸乃の行動に手に持っていた筆をすこし大げさに置いた昭はばっと振り向いたが、幸乃の後ろに立っているさちを見てぴしりと体を固まらせる。
「さちさまを案内したわよ。そろそろお昼だし、一緒に食べたいんじゃないかと思って来たの」
「……あっ、ああ。……さちさん、お疲れ様。神花館はどうだったかな」
「あっ、とてもすてきな旅館でスミさんという方とお話も出来ました」
「それは良かった。スミさんはお母さまのような方だから、さちさんもすぐに打ち解けられると思うよ」
昭は嬉しそうにしながらもすぐに目線を下に向けて、もう一度筆を手に持つ。
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