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「えっ、あっ、あきっ……」
「うんうん」
「昭さッ!」
「持って来たわよ~!」
「まッ!?」
さちが勇気を振り絞りながら昭の名前を言葉にしようとしたときだ。幸乃が両手に食卓盆を持ちながら器用に障子を開ける。その音に驚いたさちは思いっきり舌を噛んでしまい、思わず座卓に顔を伏せてしまう。
「えっ!? ど、どうしたのですかッ!? 昭ッ、さちさまになにをしたのッ!?」
「お前のせいだよ!! さちさんッ、大丈夫!?」
「はっ……はひ、だッ」
大丈夫ですと返事を返したいところだが、じんじんと舌に痛みが走るせいでうまく言葉に出来ない。
「ああ、申し訳ありません!? すぐに軟膏を持ってまいります!」
「いっ、い!! 大丈夫です!?」
いまにも飛び出していきそうな幸乃にさちは今まで出したことの無い声量、しかしはたから見れば少しだけ声を張りあげ制止を求めるようにしか聞こえていない程度の声をあげる。
「はあ、幸乃。すこしは落ち着いたらどうだ……昼も冷めるぞ」
「そうね……。取り乱してしまい、申し訳ありません。さちさま、傷にしみてしまったらすぐにおっしゃってくださいね」
幸乃は座卓の上に食卓盆を置き、さちの目の前に美味しそうなおむすびと卵焼きを並べていく。幸乃がさちの対面に座ると、昭は座っている文机の前から動かず、手袋を外し体制だけを変えて手を合わす。
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