八話.はじめてのおでかけ

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「さちさまも同性の私と仲良くなりたいですよね?」 「えっ。あっ、そっ、そうですね……はやく幸乃さん、とも」 「あっ、幸乃でいいですよ。敬語も崩して大丈夫です。わたしは女中ですし、気軽に話しかけてくださいね」 「はっ、はい……」  明日、昭と幸乃とともに町へ出ることが決まるなり、ふたりの会話はなにを買うかの話で盛り上がりをみせる。そんな中、さちは生まれ育った地ではないにしろ、数十年ぶりに町に出るのだと思うとすこし胸を膨らませる。  ◇  次の日。朝早くにさちの部屋の障子が開き、着替えをしていたさちは驚きながら素早く雑面を手にして頭にかける。戸惑いながらも顔を上げると口角を上げながら、桐箱を手に持っている文と目が合ったのは数刻前のことだ。  あれよあれよと文に幸乃になされるがまま着付けをしてもらい、さちはまた新しい着物へと身を包んだ。困惑していると結婚祝いだといって文は微笑んだ。  そして、いつの間にかさちはにこにこと笑みを絶やさない文と別れ、幸乃に連れられここ、神々廻へとやってきた日に入ってきた裏口の前で昭を待っている。その間にさちは幸乃に話しかけられすこし幸乃と話すことに慣れてきたとき、戸の開く音が聞こえてきて音のなる方へ視線を向けると昭が顔を覗かせていた。 「遅いわね」 「すこし板長と話してたんだ」 「そうなのね。というか、なんで裏口からなのよ。わざわざ遠回りする必要なんてないじゃない」 「ああ。結局は神花館の前を通ることになるから裏口から出る必要は無いんだけれどね、女中たちの目が気になってしまうだろうからね」
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